文政権に入る前の事前審査では、「閣僚になっても水曜集会に出席したい」と明言した。就任直後には元慰安婦の女性10人が共同生活する「ナヌムの家」を訪問し、慰安婦関連資料のユネスコ(国連教育科学文化機関)世界記憶遺産への登録に政府予算を拠出する意向を示した。

 こんないわくつきの人物を慰安婦問題を管轄する女性家族相に任命することからも、文政権が慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した2015年末の日韓合意を遵守する気がサラサラないことは明白だ。

 事実、鄭氏を指名する際に青瓦台(大統領府)の報道官は指名理由として、「慰安婦合意の再交渉を担える人材だから」と口を滑らせた。韓国メディアがこの発言を一斉に報じると、報道官は1時間も経たないうちに指名理由を撤回したが、文政権として日韓合意の再交渉をめざすという本音が露呈した瞬間だった。

 ただし国と国との合意を韓国側から「やめた」とは言い出せないので、文政権はタスクフォースを設置して交渉の経緯や内容を調査して年内に検証結果を発表する予定だ。再交渉に日本が応じる可能性はゼロなので、検証結果を口実にして韓国側が「慰安婦合意は白紙に戻す」と宣言することは十分にあり得る。

●むろたに・かつみ/1949年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、時事通信社に入社。政治部記者、ソウル特派員などを歴任。退社後、評論活動に入る。近著に『崩韓論』(飛鳥新社)など。

※SAPIO2017年11・12月号

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