◆米国が折れるまで北朝鮮の「挑発」は続く
今後も北朝鮮は弾道ミサイルの発射を続けるだろうし、核実験も行うだろう。米国は「挑発」というが、北朝鮮にとっては「開発」を進めるために必要な実験なので、これを止めるわけにはいかない。米国からの圧力により現体制が崩壊することを防ぐために、米国領を攻撃可能な核弾頭を搭載した長距離弾道ミサイルを一日も早く実戦配備する必要があるためだ。
このような北朝鮮の動きにより米朝関係が緊張し、もしかしたら、トランプ大統領が「最後の賭け」にでて、再びチキンゲームが展開されるかもしれない。
今春の「先制攻撃説」による「危機」とは違い、経済制裁により北朝鮮が降参するのが早いか、米国の世論にトランプ政権が降参するのが早いか、という意味でのチキンレースである。
しかし、最後は何らかの形で両者が交渉のテーブルに着くことになることは目に見えている。問題は、どのような形で交渉に入るのかということだろう。北朝鮮の弾道ミサイル発射実験や核実験は、米国との交渉を有利に進めるためにも継続される。
トランプ大統領は、メンツが保てる形であれば、早い時期に手打ちにして、北朝鮮問題から離れたいと思っているのではないだろうか。もうこれ以上、外交で失敗を重ねることはできないからだ。少なくとも、北朝鮮問題で点数を稼ぐことが不可能なことは感じているはずだ。
◆金正恩政権が崩壊したら
今後行われる経済制裁が効果を発揮した場合、まず最初に影響を受けるのは、特権階層以外の弱い立場にある国民だろう。1990年代の数十万人以上の大量の餓死者を出した、いわゆる「苦難の行軍」の再来である。
生死を左右する「苦難の行軍」に匹敵するような経済危機によって国民の不満が高まり、反体制運動が誘発されるなどして金正恩政権が崩壊したら何が起きるだろうか。筆者は政権崩壊後に無政府状態となった「朝鮮半島北半分」の統治をめぐり、米国と中国が対立すると考えている。
韓国の文在寅大統領は南北統一を強く主張するだろうが、経済が低迷している韓国に統一に必要な費用を捻出する余力はない。南北統一を目指すにしても北朝鮮のインフラの整備や工場の再建などに多額の費用と時間が必要となる。
これらの費用は外国の援助に頼るほかないため、韓国は主導権を握ることができず、北朝鮮の行方を決めるのは、事実上、米国と中国となる。つまり、米国と中国が、それぞれ自国の影響下に置ける(コントロールできる)政権の樹立を目指すことになる。
米国にとっては韓国が親米政権であれば、少なくとも現状を維持できるのだが、中国にとっては「朝鮮半島北半分」に親米政権が樹立されることは絶対に許されない。
◆「国債」という名の武器
例えば、中国は次のような戦略で交渉を進めるかもしれない。
中国の米国債の保有額は日本に次いで世界2位であり、今年7月時点で1兆1000億ドル(約123兆円)を保有していることから、中国は自国が米国の大口の債権国であるという立場を利用して交渉を進める。
もっとも、米国はこのような事態を想定しており、外国が購入した米国債については、米国の安全保障などに敵対する国家の保有分は「国際緊急事態経済権限法」(IEEPA)により無効化できる。
しかし、交渉の進展具合によっては、中国はIEEPAを米国が発動する前に、米国債を一気に売りに出して米国経済を潰しにかかる危険がある。これが実行されればドル安と金利の上昇が起き、米国の景気に打撃を与える。
だが中国も、ドル建ての投資が打撃を受けることになるため、このあたりは交渉の駆け引きとなるだろう。
中国の米国債については、米国防総省が2012年に「米国債を武器にしようとすれば米国より中国の方が打撃を受けるだろう」と報告しているが、報告の内容よりも、財務省ではなく国防総省の報告であることが興味深い。