超高齢社会の日本でも、安楽死を望む人々が増えている。しかし、安楽死は認められていない。たとえ本人の意思があろうとも、それを行なった医師は刑法第199条(殺人罪)と第202条(嘱託殺人罪)によって罰せられる。
過去には、末期がん患者に塩化カリウムを注射し死亡させた1991年の東海大学付属病院、気管支ぜんそくの意識不明患者に筋弛緩剤を投与した1998年の川崎協同病院など、「安楽死事件」と称される出来事が日本でも起きていた。それは、医師が患者本人というよりも、むしろ家族の要請によって施された措置だった。
東海大学事件の主治医だった医師は、25年の沈黙を破って、「今さら、どうこうしたって、どうしようもないだろ。あの時の苦痛を考えたら、メディアなんか信じられないんだ」と、私に吐き捨てた。
海外で出会った医師たちは、安楽死を誇らしげに話す一方で、日本の医師側はこの問題について無言を貫き、議論の余地さえないのが現状だった。
◆日本人が安楽死するには?
ある日、30代の日本人女性から電話が入った。彼女は、私が取材してきたスイスの自殺幇助団体に、すでに会員登録済みだった。「子供の頃から、毎日、死にたいと思ってきたんです」と、その女性が言ったのを思い出す。
「より良く生きたい気持ちはないし、人に迷惑をかけたくないので」