磯田:脚本家の中園ミホさんには「西郷は餅のような人間です」と伝えました。人間・西郷は近い距離にいると、金網の上で焼いた餅が一体化してしまうように、他者と心が解け合ってしまう。犬と一緒にいれば犬と同じ気持ちになって、自分が食べるウナギを先に分け与えてしまう。政治でも同じで、勝海舟と江戸の無血開城について話し合ったときも、いつしか勝の気持ちになり寛大な処置になる。
『西郷どん』の本編では、幼少時の西郷が女装をするエピソードがありました。薩摩のマッチョな男社会でいかに女の人が可哀想な状態にあるか、その気持ちになってみようと女の着物を着てしまうわけです。
もちろんそんな史実はありませんが、こういうデフォルメは有りだと私は思うんです。
でも西郷が大らかな男だったとして台本を書いたら間違いになります。西郷の知人たちは、西郷はとにかく人とぶつかる、柔軟とは言えない男だった、と口を揃えている。それを勝手に「包容力のある男」にするデフォルメをやったら史実から離れます。
三木:西郷という男は、本当に描くのが難しいと思うね。とらえどころがないし、月照という僧侶と心中するという、同性愛を思わせる史実すらある。
磯田:それも西郷の一面です。西郷は完全無欠のヒーローではなく、ずるい部分、ダーティーな部分もある。『西郷どん』では、後半でそういう面も描かれるはずです。