「死が予告されていた彼女は『なぜあと何か月も耐え難い痛みをがまんして生きる必要があるのか。私は無神論者で神や死後の世界は信じていません』と言い、『耐えられない痛みとともに、じわじわと死んで行くのが恐怖なのよ』とも訴えました」(宮下さん)
死の前日、宮下さんが取材時の写真や会話使用の誓約書にサインを求めると、彼女は冗談めかしてこう言った。
「明日はもう死んでいるから、サインできないわよ」
宮下さんが振り返る。
「その翌朝、ブンヌさんは旅立ちました。彼女の夫は深い喪失感に苛まれてしばらく苦しみましたが、その後再婚し、彼なりの幸福を見つけたようです」
宮下さんが出会った安楽死者は、みな、死の直前まで人としての尊厳を失わず、明るく振る舞った。死の当日に親族、知人を集めて盛大なパーティーを開いた人もいた。
日本では考えられない光景の連続に立ち会った宮下さんは何度も逡巡し、何が正しいのか見失うこともあった。
スイス最大の自殺幇助団体「ディグニタス」の公表資料によれば、同団体は2015年から2017年までの3年間で50か国645人の自殺を幇助した。
「日本人は2017年に25人、2016年に17人、2015年に15人がディグニタスに登録しています」(宮下さん)
この中の3人がすでに自殺幇助により死亡したと公表されている。
※女性セブン2018年10月11日号