甲子園か、佐々木の将来か──國保監督は後者を選び、岩手大会の決勝で佐々木の登板を回避させた。球児にとって最大の夢である甲子園よりも、球界の宝となるべき球児の身体を守ったのだ。
「投げない怪物」の存在は、高校野球に新たな価値観が登場したことの象徴である。
日本高等学校野球連盟は9月20日に「投手の障害予防に関する有識者会議」を開き、来春の選抜から「1週間で500球以内」「3連投禁止(3日続けての登板の禁止)」といった投球制限を設ける方針を固めた(3年間は試行期間)。岩手大会での佐々木の登板回避という“事件”が、議論を加速させた側面もあるだろう。
高校日本代表の一員として臨んだU-18野球W杯でも、右手中指のマメにより、わずか1イニング、19球を投じただけで終わった佐々木の指名に踏み切る球団には、覚悟が求められる。
早くから1位指名を公言している北海道日本ハムや、福岡ソフトバンクがくじ引きに参加することが予想されるが、どの球団に決まるにせよ、ガラスのエースを防弾ガラスのエースへと成長させる育成力が問われる。
2月のキャンプインから、初ブルペン、初シート打撃登板など、ファンはその一挙手一投足に注目し、メディアが大きく取り扱う。“初登板のお披露目は本拠地で”といったプロの世界では常識の営業的な都合もある。そうしたなかで佐々木の身体を守りながら、その才能を開花させなくてはならない。