「心の準備はできていました。ストレートで押せるところは押し、フォークで三振を狙えるところは三振が取れた。調子は良かった。今日の出来は80点です」
中村監督も達の期待以上の投球にどこか困惑しているようだった。
「ほんと、びっくりです。普段の達を知っていたら、誰も今日のような投球をするとは思っていないと思います。ほんと、信じられません」
ゆったりとしたモーションから強く腕を振る。マッチ棒のように細い身体が今後、大きくなれば球速はグッと増していくだろう。投球フォームを参考にするのはダルビッシュ有(カブス)だという。そう聞くと、顔つきもどことなくダルに似ているように見えてくる。
「よく言われます(笑)」(達)
現時点からダルビッシュと同じ舞台に立つことを夢見ている。
「将来は、メジャーしか考えていません。できたら、高校卒業後、すぐに」
記憶する限り、高卒即メジャーのプランを高校1年生の段階から口にした球児はひとりもいない。
達にとって2試合目の先発となったのが、神宮大会の準決勝・中京大中京戦だった。初回から天理が得点を重ねれば、達が失点する展開が続き、8対5と天理がリードして迎えた8回裏――。達が無死一、二塁のピンチを招いたところで、降板となった。
冷え込みのせいか大阪桐蔭戦に比べて真っ直ぐの球速が出ておらず、130キロ前後にとどまった。制球も不安定で、7四球を与えた。
「いつものマウンドと比べて、(神宮球場は)赤土で、マウンドが固くて、感覚がぜんぜん掴めなかったです。ストレートが良くなかったので、今日は変化球主体でした」
達が降板したあとに天理は中京大中京に逆転を許し、秋の日本一には届かなかった(延長10回9対10で敗戦)。達は今冬の課題をこう話した。
「もっと体重を増やしたいです。スピードとコントロールのためにも。球速は高校3年間で最低でも151キロには到達したいです」
近畿を制し、神宮大会に出場したことで、来春の選抜出場はほぼ確実だ。神宮大会で背番号「18」をつけた達は、チーム内では2番手、3番手の先発投手に位置づけられる。来春のセンバツからは、「球数制限」が導入されることもあり、頂点を目指す上では、マウンドを任せられる投手を複数育てることが絶対条件となる。達の成長が、天理を全国制覇に近づけることだろう。