法案の成否は秋の臨時国会に委ねられるが、今回特徴的だったのは、「一つの法案」についてSNSを通じて「国民的議論」が盛り上がったことだ。『なぜ政治はわかりにくいのか』などの著書がある東京工業大学の西田亮介准教授(社会学)はこう分析する。

「ネットでハッシュタグを使って運動と議論を盛り上げる動きは、常態化しつつあります。最近ではグローバルに盛り上がった#MeToo運動がありますが、今回は国内問題、しかも政治に関して桁違いに盛り上がりました。従来、政治的な態度を明確にしてこなかった芸能人なども、数多く反対の意思を表明しました。有名人である彼らはネット上のインフルエンサーでもあるので、ファンだけでなく、それ以外のユーザーも呼応して同調が広がったのだと思います。

 今回の盛り上がりについては、好ましい面とそうでない面があります。そもそも政治に関心がなかった若者が関心を持つようになり、何かと政治的な議論を避けがちな社会の風潮が変化するなら好ましいでしょう。しかし、同時に、ステレオタイプな政権批判が目立つ一方で問題点を深掘りする議論がないように見えます。『反対運動に同調しないとは何事か』など“自粛警察”に似た動きがあることも気になります」

 西田准教授はまた、コロナ自粛という特殊な状況が、反対運動を盛り上げた可能性があると言う。

「芸能人を含む多くの人がステイホームの共通体験を余儀なくされたことで、スマートフォンを手にネットを眺める時間が長くなっています。コロナ禍という緊急状況下では、誰もが仕事やプライベートを制限されたという“被害者意識”をもっている。その矛先のひとつが、SNSでの検察庁法改正案反対運動だったのではないでしょうか」(西田准教授)

 そして結局、検察庁法改正案の今国会での成立は見送られた。この間の政権がとった態度について、西田准教授はこう指摘する。

「一部報道や当方の研究でも、現政権はネットの『民意』に強い関心を示しています。しかし、『国民の反対』を理由に政府の方針がコロコロ変わるようでは、『民意』と異なった妥当な政策があるときに、それが採用されにくくなる恐れがある。為政者には、たとえ反対が多くても必要があるときには責任をもって民意を説得する、という選択があり得るはずです」

 前述の通り、本アンケートでは9割近くもの圧倒的多数が「容認できない」と回答したが、奇しくもそのなかに次のような42歳女性の言葉があった。

「民主主義の根幹となるのは、多数決ではなく、対話である」──為政者たちはもちろん、我々国民も胸に刻むべき至言であろう。

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