日本で報じられる中国にまつわる情報にはある種のバイアスがかけられている場合が少なくないという。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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封鎖解除から1か月。5月9日には武漢で新たな感染者(1人)が見つかり、「すわ、第2波の始まりか!」と世界中が神経質に反応した。しかし当の中国はそれほど慌てている様子はない。というのもこれは、封鎖が解除されたことで人々の気が緩み、繁華街など人が密集する場所でクラスターが起きた、といった話ではないからだ。
新規感染者とされる高さんは89歳。春節からずっと外出はしていなかったという。ただ3月17日には発熱と寒気を訴えていて、薬を飲んで自宅で休んでいたと伝えられている。投薬の結果、およそ10日後に体調は回復したということで病院に行くこともなかった。しかし、4月15日から今度は食欲不振やだるさなどの症状が表れたため、あらためて新型コロナウイルスの感染を疑い、5月6日に病院へ行きPCR検査を受けたところ翌日に陽性が確認されたのである。同居する妻と娘にも同検査が行われ、妻には陽性反応が出たが娘は陰性。その他、同じマンションから計6人の新規感染者が見つかったのだった。
繰り返しになるが、この件で中国が慌てた様子はなかった。高さんはもちろん、家族の全ての行動をさかのぼって把握することができていたからで、その点は韓国のケースのように接触者2000人と連絡が取れないといった問題は抱えていなかったからである。
ただ、問題を拡大しようとする者はどこにでもいるものだ。案の定、「武漢の三民小区で新たに13人が発症、鐘南山がすでに武漢入りか?」というネットの書き込みが人々の間を駆け巡った。
続いて、新規感染者の高さんは「小区で頻繁にゴミをあさっていたことが感染の原因」という書き込みが話題となり、さらに小区の全員の健康コードが、すべて赤に変わった──健康を示す色は青──というデマまでネットで拡散された。
もちろん、いずれも根拠のない情報だ。すでに武漢市の公式メディアてデマであることが呼びかけられている。
それにしてもこれほどネットの言論が不自由で、もしこんな発信をすればかならず取り締まりの手が及ぶと解っているのに、なぜこんなデマが湧き出してくるのか。これこそが中国という国の不可解さであり、日本人が日本の感覚で中国を分析することに限界を感じさせるエピソードなのだ。