11月3日に行われるアメリカ大統領選挙。トランプ大統領が再選を果たすか、あるいはバイデン候補が勝利して民主党が政権を取り戻すのか。黒人差別問題が争点のひとつになる中、ジャーナリストの池上彰氏は「オクトーバー・サプライズ」にも注目しているという。
* * *
今年、アメリカで「Black Lives Matter」の運動が盛り上がりました。ブラック・ライブズ・マターは、「黒人の命も大切だ」「黒人の命こそ大切だ」などと訳されます。
このニュースを見て、「アメリカはいまもこんなに黒人差別が残っているのか」と驚いた人も多いと思います。日本の中学校の英語の教科書には、黒人差別撤廃運動(公民権運動ともいいます)に取り組んだキング牧師の「私には夢がある」の演説の一部が掲載されています。この英文を読むことで、黒人差別と戦った人たちの歴史を知ることができますが、その後、アメリカに黒人のオバマ大統領が誕生したことで、差別はずいぶんなくなったと思っていたのではないでしょうか。
そんなことはなかったのですね。黒人の大統領が誕生するまでにはなりましたが、それは一部の話。黒人の間でも一部のエリートと多数の低所得階層に分断されています。
オバマ大統領についても、父親はケニア人留学生、母親は白人で、「黒人奴隷の子孫ではない」から、つまり「黒人でありすぎない」からこそ広く支持を勝ち得たという見方もあります。
2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の拡大によって、アメリカでも大勢の犠牲者が出ましたが、とりわけ黒人層に犠牲者が集中しています。ウイルスは全人類を平等に襲いますが、防いだり治療したりという対策では格差が出るのです。
今回の感染拡大で、アメリカでは「エッセンシャル・ワーカー」という言葉が広がりました。「欠かすことのできない仕事をしている労働者」という意味です。
医療従事者はもちろんですが、清掃や廃棄物処理などの仕事をしている人たちです。こういう仕事は、在宅勤務に切り替えることができません。黒人たちは、こうした仕事についている人が多く、公共交通機関で出勤します。労働現場も苛酷な環境が多く、感染しやすかったのです。感染してもすぐに医療機関にかかれる状況にない人もいて、重症化してから救急車で運び込まれ、手遅れになった人たちも多かったのです。