一方で、真逆のタイプの人もいますよね。別の知人は、「頑張ってと励ましてほしい」と言っていました。その人はすごく健気に闘っていて、「大丈夫」「今日は抗がん剤2日目!」とか、Instagramにアップするんですよ。私は最初「無理しないでほしい」と感じていたのですが、よくよく話を聞いてみると、その人にとっては「頑張って」という言葉をかけられたり、日々を投稿したりすることが心の支えになっているんですよね。「頑張って」という言葉は軽率に使ってはいけないと思い込んでいたので、目から鱗というか、想像力が足りなかったと感じました。
『ママがもうこの世界にいなくても』は、和さんという1人の女性のケースだけれど「自分だったらどうするか」というスタンスを考えるうえで大きなヒントになると思います。がんの患者さんがリアルタイムで感じたことを、ここまで克明に、そして思ったままに本心で記している文章はめったにないのではないかと思いました。
◆新井見枝香(あらい・みえか)
1980年東京都生まれ。書店員、エッセイスト、ストリッパー。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントや仕掛けを積極的に行い、中でも芥川・直木賞と同日に発表される一人選考の文学賞「新井賞」は読書家の注目の的となっている。20年からはストリップの踊り子として各地の舞台に立ち、三足のわらじを履く日々を送っている。著書に『本屋の新井』(講談社)、『この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ』(秀和システム)など。