『ちむどんどん』に出演する黒島結菜

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実家から事務所通い

 沖縄ヤクザの原型は戦果アギャーである。

 戦果をあげる人……占領軍の物資を強奪する窃盗団だが、鼠小僧のような義賊のニュアンスを含んでいる。

 暢子が生まれた頃、戦果アギャーから発展したグループはコザ市(現沖縄市)にコザ派を形成、水商売の店や遊技場を経営した。同時に地域の自警団となって、米兵相手の商売人の用心棒を務めた。一方、那覇市近郊では、沖縄空手の道場から空手の達人たちが用心棒となって那覇派を結成。この2グループが沖縄ヤクザのプロトタイプだ。

 実際、彼らは現代暴力団とは異質の、暴力専業者としては不完全な試作品だった。よくいえば牧歌的でロマンがあった。

 博徒は初対面の挨拶で手を差し出し、「お控えなすって」と仁義を切る。アメリカ統治下の沖縄は握手の文化だ。新興の沖縄ヤクザは仁義を知らず、その手を両手で握り返したという。武器を使うのは恥とされ、抗争に拳銃を持ち込んだのは山口組のヒットマンだった。加えて沖縄ヤクザは、アシバー(遊び人から転じてヤクザ)であっても普通の市民で、それぞれ正業を営んでいた。

 抗争を繰り返し、沖縄ヤクザが団結して旭琉会を旗揚げしてからも、「ナニワ造花グループ」や「上之蔵氷屋グループ」は、「花屋シンカ」「氷屋シンカ」と呼ばれ、正業で派閥が色分けされた。「センターシンカ」という一団は「バスセンターのグループ」で、車掌が運賃を誤魔化さないよう監視したのだという。シンカとは友人とか仲間を意味するウチナーグチだ。コザ派や那覇派も、コザシンカであり、那覇シンカだった。プロパンガスの販売にもシンカはあった。

 こうした沖縄の特殊事情は、ヤクザを容認する風土の根だ。黎明期、戦果アギャーから身を起こした「ターリー(父)」こと喜舎場朝信は、暢子が9歳のとき(昭和38年)に逮捕され、2万5000ドルの保釈金を払って娑婆に戻り、沖縄の銀行をカラにしたと噂になった。仮釈放後、コザ市照屋の区民館で『喜舎場朝信を救う会』が開催された。地元の市議会議員や経営者たちが集まり、嘆願書を提出したのだ。

 現在も沖縄では実家から事務所通いをする若い衆をみかける。親が事務所通いを許容するのは、暴力団を反社会勢力と考えていないからだろう。

後編に続く

【プロフィール】
鈴木智彦(すずき・ともひこ)/フリーライター。1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。

※週刊ポスト2022年6月3日号

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