世界シェアは4割
急激な需要拡大に伴って価格競争が激化。「より安価で大量」に供給が可能な中国やインドなどの新興国産の原薬のニーズが高まったのだ。
2014~2016年にかけ、上海のクリニックで日本人駐在員や英語圏の患者の診療を行なっていた一石英一郎医師(国際未病ケア医学研究センター)が当時を振り返る。
「当時の上海近郊では世界最大規模の製薬工場が建設中で、『中国は薬で世界一を目指す。大量に安価な薬を作って、全世界に供給する』と宣伝していたのを覚えています」
欧米や日本に比べ工場の建設コストや人件費の面で優位だったことが、世界の医薬品市場における中国の存在感を高めた要因だと考えられる。さらに当局の“緩さ”も中国シフトを加速させた一因だと一石医師は見る。
「薬の原料となる物質の化学反応に欠かせない『フッ素化』や『塩素化』などの生産工程では現場作業にリスクが伴うし、大気、水、土壌に化学廃棄物を残す問題も生じる。先進国では問題視されるが、中国は製薬大国になるため、あえて“厄介な部分”を担っていた面があるのでしょう」
いまや、中国の原薬生産における世界シェアは4割に達した。ここ数年、日本でも「原薬」の登録件数は中国企業が首位に立ち続けている。つまり我々が普段飲んでいる薬は“外見は日本産、中身は中国産”のケースが多いということだ。
そもそも「原薬」とは何か。
「原薬は薬が作用するための一番大事な有効成分です。多くの薬は化学物質を原料とし、それを合成したり不純物を取り除いたりして原薬が製造されます。その薬の“素”となる原薬が、温度や時間で変化しないよう添加剤を加えて安定化させ、コーティングやカプセルに入れることで、患者さんが普通に飲んでいる薬の形になります」(谷本医師)