●安田峰俊氏(ルポライター)
安田峰俊氏(ルポライター)
日本のAVは中国や台湾など中華圏の各地で根強い人気を誇っています。その歴史は古く、1990年代初頭に日本AVの海賊版ビデオテープが香港や台湾に渡り、ダビングを繰り返され中国大陸にも伝わりました。当時すでに飯島愛や夕樹舞子らの人気女優は、アジア規模の知名度を得ていた。その後も近年まで、海賊版DVDや違法ダウンロードなどの形で日本AVは中華圏で流通してきました。「顔射」「潮吹」など中国語として定着した用語も多くあります。
アジアに冠たる日本のAVですが、長年続いたそんな構図が、今や地殻変動を迎えている。近年、中国や台湾で制作されたとみられる高品質なAVが、ネット上で急速に拡散しているんです。
台湾系とみられる「麻豆伝媒」、中国系らしき「抖影」「精東影業」など、すくなくとも20程度のレーベルの存在が確認されている。中国は言論統制が厳しい国ですが、動画を海外サーバーにアップロードする形で、摘発を回避しているようです。無料で視聴できる動画が多いため、作品の販売ではなくアクセス数で稼ぐビジネスモデルと思われるが、問い合わせに回答してくれないので不明な点は今なお多い。
これらの中華圏AVの女優たちはなかなかの美貌で、映像の照明・撮影技術も、日本の作品とくらべて大きくは劣らない。冒頭の女優へのインタビューシーンの挿入や、体位のバリエーション、「やらしょい姉」(“やらしい姉”の誤記)と故意に日本語の題名をつけるなど、制作にあたっての日本のAVの影響は色濃く感じます。
一方で、男優や女優の尻や腹にはレーベル名が直接ボディペイントされ、行為中にいかなる体位をとっても画面内に文字が映り込むなど、いかにも中国らしい商魂のたくましさもみられる。
西遊記や三国志がモチーフのお色気時代劇や、中国内陸部の辺境地帯でのロケ撮影など、作り手の遊び心を感じさせる個性的な作品も少なくない。日本のAVと違い局部のモザイク処理がないので、場合によってはこちらのほうが「実用度」が高いケースもあると感じます。ものづくりやITなど、様々な面で日本を追い抜く中華圏のパワー。日本がもたつけば、AVの世界で日中逆転が起きる日は近いかもしれません。
※週刊ポスト2022年7月1日号