国内

TBS『報道特集』「原発事故と甲状腺がん」の問題点 語られなかった科学的事実【後編】

韓国における甲状腺がんの罹患率と死亡率(1993-2011年)。韓国では1990年代後半から甲状腺検査が激増して、隠れた甲状腺がんを拾い出して発生率が急上昇したが(ほとんどが乳頭がん)、死亡率はまったく変わらなかった。(出典:「Korea's Thyroid-Cancer “Epidemic” - Screening and Overdiagnosis」Hyeong Sik Ahn他 2014年11月6日)

韓国における甲状腺がんの罹患率と死亡率(1993-2011年)。韓国では1990年代後半から甲状腺検査が激増して、隠れた甲状腺がんを拾い出して発生率が急上昇したが(ほとんどが乳頭がん)、死亡率はまったく変わらなかった。(出典:「Korea’s Thyroid-Cancer “Epidemic” – Screening and Overdiagnosis」Hyeong Sik Ahn他 2014年11月6日)

 約1か月前に放送されたTBS系『報道特集』内の特集「原発事故と甲状腺がん」。放送直後から、内容に「事実誤認がある」などと批判が巻き起こった。番組は、2011年に起きた原発事故の放射線被ばくにより甲状腺がんを患ったとして、男女6人が東京電力を訴えた裁判が始まることを報じたもの。放送内容のどこに問題があったのか。【前後編の後編。前編から読む】

韓国では検査で「甲状腺がんが最多」に

 海外の例も参考に考えたい。2014年に米医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に韓国のHyeong Sik Ahn博士が発表した論文によると、韓国では2000年頃からがん検診のオプションで安価で甲状腺検査が受けられるようになり、検査を受ける人が激増した結果、甲状腺がんと診断される人が1993年に比べて2011年は15倍に達し、韓国人のがんの1位に躍り出た。

 患者のほとんどが摘出手術を受けたが、この早期発見・早期治療により、甲状腺がんでの死亡率が下がったかと言うと、まったく下がらなかった。つまり、甲状腺がんには早期発見・早期治療が大事とするがん治療の原則が当てはまらないのである。それどころか、手術に伴う合併症で、副甲状腺機能低下症や声帯麻痺を起こす人も少なからずいたという。

 前述のUNSCEARの報告書でも、「過剰診断の有害性は放射線被ばくの有害性を上回る可能性がある」と警鐘を鳴らしていて、世界保健機関(WHO)の外部機関である国際がん研究機関(IARC)も、放射能事故後であっても全員を対象とするような甲状腺検査は推奨しないと提言している。

 とりあえず甲状腺検査をして、がんがみつかっても手術をせずに経過観察をすればいいとの考え方もあるが、高野医師は検査そのものが有害だという。

「一度がんと診断されてしまうと、一生不安を抱え続けるだけでなく、生命保険や医療保険に入れなくなったり、結婚や就職で差別を受けたりと、デメリットが多すぎます。

 子供の甲状腺がんは自覚症状が出てからでも治療は間に合にあうので、わざわざ小さながんを見つける必要はありません。あまり小さなうちにみつけてしまうと、甲状腺の大部分を残す縮小手術が選択されがちになりますが、子供の甲状腺がんは手術をした後での再発が多いという特徴があります。縮小手術をした場合、再発の可能性はより高くなります。すなわち、大きくなってから治療すれば一度で済んでいたはずの手術を何回も受けなくてはならないかもしれないのです。

 そうかといって、再発が怖いからという理由で全摘術を受けた場合、一生甲状腺ホルモン剤を飲み続けなければなりません。このようなジレンマを抱えてしまうのです。また、命に関わるような未分化がんは子供には発生しません」(高野医師)

関連キーワード

関連記事

トピックス

お笑いコンビ「ガッポリ建設」の室田稔さん
《ガッポリ建設クズ芸人・小堀敏夫の相方、室田稔がケーブルテレビ局から独立》4月末から「ワハハ本舗」内で自身の会社を起業、前職では20年赤字だった会社を初の黒字に
NEWSポストセブン
”乱闘騒ぎ”に巻き込まれたアイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー)」(取材者提供)
《現場に現れた“謎のパーカー集団”》『≠ME』イベントの“暴力沙汰”をファンが目撃「計画的で、手慣れた様子」「抽選箱を地面に叩きつけ…」トラブル一部始終
NEWSポストセブン
母・佳代さんのエッセイ本を絶賛した小室圭さん
小室圭さん “トランプショック”による多忙で「眞子さんとの日本帰国」はどうなる? 最愛の母・佳代さんと会うチャンスが…
NEWSポストセブン
春の雅楽演奏会を鑑賞された愛子さま(2025年4月27日、撮影/JMPA)
《雅楽演奏会をご鑑賞》愛子さま、春の訪れを感じさせる装い 母・雅子さまと同じ「光沢×ピンク」コーデ
NEWSポストセブン
自宅で
中山美穂はなぜ「月9」で大記録を打ち立てることができたのか 最高視聴率25%、オリコン30万枚以上を3回達成した「唯一の女優」
NEWSポストセブン
「オネエキャラ」ならぬ「ユニセックスキャラ」という新境地を切り開いたGENKING.(40)
《「やーよ!」のブレイクから10年》「性転換手術すると出演枠を全部失いますよ」 GENKING.(40)が“身体も戸籍も女性になった現在” と“葛藤した過去”「私、ユニセックスじゃないのに」
NEWSポストセブン
「ガッポリ建設」のトレードマークは工事用ヘルメットにランニング姿
《嘘、借金、遅刻、ギャンブル、事務所解雇》クズ芸人・小堀敏夫を28年間許し続ける相方・室田稔が明かした本心「あんな人でも役に立てた」
NEWSポストセブン
第一子となる長女が誕生した大谷翔平と真美子さん
《真美子さんの献身》大谷翔平が「産休2日」で電撃復帰&“パパ初ホームラン”を決めた理由 「MLBの顔」として示した“自覚”
NEWSポストセブン
不倫報道のあった永野芽郁
《ラジオ生出演で今後は?》永野芽郁が不倫報道を「誤解」と説明も「ピュア」「透明感」とは真逆のスキャンダルに、臨床心理士が指摘する「ベッキーのケース」
NEWSポストセブン
渡邊渚さんの最新インタビュー
元フジテレビアナ・渡邊渚さん最新インタビュー 激動の日々を乗り越えて「少し落ち着いてきました」、連載エッセイも再開予定で「女性ファンが増えたことが嬉しい」
週刊ポスト
主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
【斎藤元彦知事の「公選法違反」疑惑】「merchu」折田楓社長がガサ入れ後もひっそり続けていた“仕事” 広島市の担当者「『仕事できるのかな』と気になっていましたが」
NEWSポストセブン
お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志(61)と浜田雅功(61)
ダウンタウン・浜田雅功「復活の舞台」で松本人志が「サプライズ登場」する可能性 「30年前の紅白歌合戦が思い出される」との声も
週刊ポスト