(時事通信フォト)

『石子と羽男』に出演中(時事通信フォト)

おいでやす小田の季節が到来

 役の設定は硝子たちの働く弁護士事務所の近所にある、蕎麦屋の2代目。硝子に片思いをしていて、彼女が食事に来るとサービスが尋常ではない。もう大食い選手権クラスで、注文した料理を増量してくる。それ以外にも「今日の営業は終わった」と、ふたりの間に割り込んで、気持ちをアピールするものの、啓介の気持ちにはまったく気づいていない硝子……。ちなみに硝子には同じ事務所でバイトをする大庭蒼生(赤楚衛二)も思いを寄せているが、イケメンの片思いとはまた様相が違う。とても味がある。

 小田さんが演技の力を見せつけたのは、やはり朝ドラ『カムカムエヴリバディ(以下『カムカム』)』(NHK・2021)での、森岡新平役……そう言ってもピンとくる人は少ないかもしれない。物語の3代目ヒロインにあたる、大月るい(深津絵里)の営む京都の回転焼き屋の近所にある酒屋の店主だった。毎朝、るいの店に顔を出しながら配達をして、少しずつ年を取っていく様子が思い出される。

 頭のてっぺんから出ているような発声。そして主演俳優陣たちへの小慣れた絡みかたは、長年お笑いの世界で培った賜物だ。書き手として、あまり使いたくないワードではあるけれど“爪痕残している”ということを、彼の演技から実感する。『カムカム』初回の登場では「あれ、あの人?」と“おいでやす”のワードを脳内で探してしまったほど。物語が進むに連れて、新平の存在がないと寂しさを覚えていた。

 すでに何作もドラマ出演されていると思いきや、『石子と羽男』が4作目となる小田さん。『カラフラブル〜ジェンダーレス男子に愛されています。〜』(読売テレビ、日本テレビ系列・2021年)がデビュー作品で、深夜放送帯のドラマから、いきなり朝ドラにジャンプアップしている。そして今クールは『彼女、お借りします』(朝日放送、テレビ朝日系列)とのダブルヘッダー。今後も彼の姿を見かける機会がますます増えるはず。

 機は熟した。44歳、おいでやす小田の季節、到来なのである。

【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、企画、編集、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。著書に、30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 -つながる機能が増えた世の中の人間関係について-』(WAVE出版)がある。静岡県浜松市出身。Twitter:@hisano_k

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