参事院は後の内閣法制局にあたる役所で、初代の議長は伊藤博文だった。伊藤はそのころから、大日本帝国を憲法制定で立憲国家とする構想を持っていた。また、後に政党政治を確立する構想も持つようになる。大隈重信や福澤諭吉の性急な憲法制定活動には反対していたが、伊藤は山県有朋そして桂太郎がめざした統制的な国家体制とは一線を画するものを指向した「リベラル」な政治家だった。どうやら、その伊藤が西園寺を参事院に招いたようだ。

 伊藤と西園寺は面識ぐらいはあったかもしれないが、少なくとも親しくは無かった。ただ伊藤は岩倉から、西園寺とは「鳥羽伏見の戦いを私戦にしてはならないと叫んだ小僧」であることは聞いていた可能性はある。「そういう気骨のある男なら使える」と伊藤は思ったのではないか。採用わずか四か月後の一八八二年(明治15)三月、伊藤は憲法調査のためヨーロッパに向かうのだが、その随員に西園寺は選ばれた。伊藤が西園寺に期待していた証左だろう。この旅行で西園寺は伊藤と親しくなり、その側近そして後継者の道を歩むようになる。

 本章は冒頭述べたように「西園寺公望の一生」では無いので、駆け足で「その後」を語ることにするが、西園寺は外交官としてキャリアを重ねていった。一八八四年(明治17)に家格にふさわしいとして侯爵になったこともあり、一八八五年(明治18)、まずオーストリア公使に任命された。念のためだが「大使」で無いのは、若すぎる(このとき36歳)とか能力を過小評価されてのことでは無い。まだ不平等条約の問題が解決されておらず、日本は欧米各国に大使を置けなかったからである。

 この時期、日本とオーストリアの間には格段の問題は無く、西園寺は憲法学者の講義を聴くなどして研鑽に努めた。その後、一時帰国したが今度はドイツ公使に任命され一八八七年(明治20)、ベルリンに着任した。あの「鉄血宰相」ビスマルクの君臨するドイツである。ここで西園寺は外交官としてビスマルクと交流した。

 ひょっとしたら「閣下がべルサイユ宮殿でドイツ帝国成立を宣言したとき、私はフランスに留学しパリに在住していました」などという話も出たかもしれないが、その後思いがけないことが起こった。なんとビスマルクによって擁立されたドイツ皇帝ヴィルヘルム1世の息子で、父の死後帝位についたヴィルヘルム2世がビスマルクを解任したのである。西園寺はその解任劇を目の当たりにした。

 解任の理由は社会主義勢力をどう扱うかなどの政治姿勢の違いが理由とされているが、私はヴィルヘルム2世は自信家で自分で政治をやりたかっただけだと思っている。それでビスマルクが邪魔になったのだ。

 こう言えばおわかりのように、ヴィルヘルム2世は決して名君では無かった。それどころかビスマルクが戦争と巧みな外交で築き上げたパワーバランスに基づく平和を次々と破壊し、最終的にドイツが世界の列強を相手とする形になった第一次世界大戦に踏み込ませた。それでも勝てばすべて帳消しになっただろうが、「教え子」であるはずの日本まで敵に回して惨憺たる敗北を喫した。

 覚えておられるだろうか、「黄禍論」のことを。これに染まってイトコであるロシア皇帝ニコライ2世に吹き込んだのもヴィルヘルム2世だった(『逆説の日本史 第25巻 明治風雲編』参照)。その結果、ニコライ2世は日露戦争に踏み切り敗北を喫し、それがきっかけでロマノフ王朝は滅亡しニコライも惨殺された。ヴィルヘルム自身もドイツ革命を起こされ、命は助かったが退位せざるを得なかった。つまりドイツ帝国も彼の代で滅んだわけだ。まさに貧乏神のような男である。

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