怒羅権のネットワークでは、すぐにメンバーが集まる
半グレという言葉が世間に認知され始めた頃、怒羅権には日本人メンバーも増えていた。「日本人は使われたり利用されたりだ。中国出身じゃないと幹部にはなれないようだ。イタリアマフィアみたいなもんだね。中国の現地の人間とのネットワークも必要だし、そいつらを使うにも言葉の壁があるからさ」と幹部は語った。
中国とのネットワークとはどういうことかと尋ねると、「事件を起こした日本人が中国に逃げ込むとかさ。金があればいくらでもできるからな。だが、本当に悪いことをする場合は、中国から密入国をしてきた人間を使うんだ。金を払って殺しとかやらせた後、すぐに中国に帰国させる。それがやつらのやり方だよ」。10年ほど前、そんな話が語られていたのだ。
当時から怒羅権には派閥があり、相互に仲がよいわけではなかった。幹部は「派閥の中では葛西、上野、八王子、府中のグループが大きく、六本木や渋谷にもいる」と話した。「それぞれがお互いに仲がいいかというと、それは違う。やっていることが違うんだ。上野だと振り込め詐欺とか、錦糸町では偽造とか、犯罪の種類が違うというか専門が違う。そうした意味では、それぞれが勝手なことをやっていて、管理はできていない。ただやつらのネットワークはすごくて情報が早く、すぐにメンバーが集まってくる」。
ある時、新宿で、幹部のいる組の若い組員が、怒羅権のある派閥のメンバーと殴り合いになったことがあった。若い組員が負傷したので、幹部が「そいつをやってしまえ」と命じた。すると、怒羅権の他の派閥のメンバーたちがバタバタと集まって幹部のところにやってきたという。「誰かがやられたとなるとあっという間に集まってくる。険悪な雰囲気に、その場でまた喧嘩が起こるかと思ったが怒羅権のほうから『俺たちはそちらに手を出さないように伝令しました。本人が謝りたいと言っているから、話し合いのテーブルについてもらえませんか』と詫びを入れてきた。相手が悪いと思ったのだろう」(幹部)。
最初はそれを突っぱね「知らんぷりしてやってしまえ」と組員らに言っていたという幹部も、「やられた本人が『怒羅権が頭を下げるならそれでいい』と言うし、何度も向こうが連絡してくるので和解することにした」と話していた。
この事件を耳にして、あの時「彼らもヤクザと同じ。一人では何もできない弱い者の集団さ」と笑っていた幹部の顔を思い出した。