「そんな大家とか業者ばかりじゃないですけど、とにかく「言ってみるか」「請求してみるか」には注意ですね。この業界はいまでもそんなものです。うるさい借主だったら引っ込めればいい、なんですよ。それでもダメならしかるべき機関に相談、もしくは裁判ですけど、それはお互い避けたいでしょう」
借主と貸主、双方言い分はあろうが、10年住んだなら誰が住んでもそれ相応の劣化や損耗があるのは当然で、そのすべてを借主に請求するのは不当ととられても仕方のない話である。先に触れた過去の判例にもあるが、一般的に通常の住居の使用に伴う劣化や損耗、それらの補修費用は月々の賃料に含まれているとみなされる。つまりそれら補修費用を指摘して敷金を差し引くことは二重請求となる。古くからの大家さんには、この点を十分に理解して経営している優良な大家さんもいる。
「実はそういう昔からの大家さんも減って、異業種や独立起業した新規参入の賃貸業者や個人投資家が増えているのもあります。つけ焼き刃の知恵だけで若い賃貸営業や管理会社の社員、素人投資家が無茶な請求をします。目先のノルマやコスト回収、資産維持ばかりで借主の回転ばかり優先する。悪質だと敷金では済まない額を請求したり、部屋と関係のない物件の一部の修繕費まで乗せたりします。まさに国民生活センターの事例そのままですね」(前出の元賃貸不動産ベテラン営業マン)
繰り返すがすべての賃貸不動産がそうではないのは当たり前の話。しかし現実に「原状回復」を中心とした敷金トラブルは今回、改めての注意喚起が出るほどに再発している。コロナ禍と景気低迷、値上がりの数々は賃貸業も例外ではない。
正当な経年の劣化や損耗なら泣き寝入りはせず、まずは賃貸借契約の内容も含め消費者庁「消費者ホットライン」の「188」や各地の消費生活センター、消費生活相談窓口を利用して欲しい。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。