本の印税は「昭恵さんに半分」
その意味で、安倍氏自身が土地取引を「深刻な問題」と指摘し、事件の渦中にあった昭恵さんも回顧録を「全部いい」と評価していることは大きな意味がある。安倍氏が語った内容は合っているのか、それを解明するのは、国会の役目だろう。例えば、財務省近畿財務局で土地取引を担当していた職員が誰かはわかっている。与野党が協力すれば、国会で真実を語るよう職員に証言を求めることもできるだろう。
そして森友事件にはもう一つ重大な問題が残されている。「公文書の不正な書き換え=改ざん」だ。
森友学園との交渉記録を財務省が不正に書き換えた。そこには昭恵さんや安倍元首相の名前もあったが、安倍氏は回顧録で、改ざんせず公表してくれれば自分もあらぬ疑いをかけられずに済んだ、としている。財務官僚による忖度などなかったことは明白だと述べている。
この回顧録への関心は高いようだ。写真展会場と同じフロアにある書店では「50冊が2日で売り切れた」(書店員)という。
余談になるが、著者の安倍元首相が亡くなって、印税はどうなるのか。編集部が書籍の担当編集者に聞くとこう回答した。
「聞き手と監修の3人に遺族の昭恵さんを加えた4人で分割する案を提案しましたが、(安倍政権で国家安全保障局長などを務めた)監修の北村滋氏が辞退したため、印税は昭恵さんに半分、聞き手のお二方に4分の1ずつ入ります」
部数は早くも15万部に達したという。これほど注目を集める回顧録の言葉である。改めて真相解明に向き合うべきだろう。それが「財務省の策略」という告発ともとれる言葉を遺した安倍元首相の供養にもつながるのではないか。いかがですか、岸田さん。
【了。前編から読む】
■取材・文/相澤冬樹(ジャーナリスト)