五木寛之さんはすごかった
和田:先日、五木寛之さんとお話しする機会を得たのですが、90歳になっても日々を楽しみながら、お仕事はもちろん、プライベートでも全力でチャレンジを続けていらっしゃいました。五木さんは普通の健康オタクとは違って、「聴力を上げるにはどうすればいいか」「咀嚼力を上げるにはどうすればいいか」など何かひとつ自分でテーマを決めて、1年かけて結論を出すそうなんです。
坂東:どんな方法が有効なのか独自に研究なさるんですか?
和田:そうなんですよ。本を読んではこれがいいとか悪いとか、試すそうです。毎日が実験だと嬉々として話してくれました。すごいですよ。ありとあらゆることを試してみないとわからないという哲学には頭が下がります。
前頭葉を使うためには本を読むだけではダメで、試すことやしゃべってアウトプットすることが必要なんです。そうやって脳を若々しく保てば行動的だし、心身が老け込まない。これまでお会いした90歳の中で五木さんがいちばんしっかりとしていらしたのも、納得です。
坂東:私が印象的だったのは日野原重明さんです。92、93歳の頃にお目にかかった際も、言いたいことがいっぱいあって話題が尽きないんです。九州までの飛行機でお隣の席だったんですが、ずーっと話しづめ。年齢を感じさせない行動力があって考えもお若かった。
行動もせずに自分の狭い経験でこれがいいと思い込むのはいけないなと、自戒の念も込めてそう思います。
和田:で、これが正しいんだと説教したりして。しかも、本などの受け売りをまわりに押しつけたりする。例えば、あのお店がおいしいとかまずいとかも、実際に食べて語るのと、食べログなど世間のものさしで語るのとでは説得力が違う。
グルメで知られる秋元康さんは大量にお取り寄せをしてひたすら試食するんですって。五木さんにしろ、飽くなき好奇心と行動力が脳を元気にして人間を老化させないんですね。
坂東:試すといえば、私が日頃意識しているのはいつもとは違うことをしてみること。通勤も知っているルートばかりはつまらないので、時間があればちょこっと寄り道をしたり、回り道をして変化をつけます。
和田:やったことのないことを試すのはとてもいいですね。そういう人は脳がずっと若いんです。同じ著者の本しか読まないとか食べ慣れた食材ばかりを使うとか、そうした決めごとや偏りでは頭のかたいお年寄りになってしまいます。化粧であれば化粧品だけでなく美容皮膚科も選択肢に入れてみるとか、試せることは何でも試してみたらいい。世間体を気にして好奇心に蓋をしていると、前頭葉から老化が進みますよ。
坂東:世間体が新しい挑戦にブレーキをかけるという意味では、女性はママ友関係など自分の交友関係の評判を気にしすぎるところがありますね。そこからどう脱却できるかが重要だと思います。特に子供の出来を女性はとても気にして、思考や行動に影響してしまいますから。
親ガチャという言葉があるけれども、私は子ガチャだと思います。親の努力や育て方はひとつの要素ではあるけれど、生まれつきの部分がかなり大きいですよ。ウチも娘が2人いますが、全然違いますし。
和田:一人ひとり生まれつき特性が違うのに、日本だと数学ができて国語ができない子には国語を勉強させようとするじゃないですか。でも得意科目と不得意科目がはっきりしているならば、得意科目を存分に伸ばしてやった方がその子の自尊心も保たれるし、その能力が生きる上で武器にもなり得る。実際、東大は数学がめちゃくちゃできたら国語が0点でも合格したりするんです。欠点のない子を目指すよりも、“欠点はあっても光るものがある”と見方を変えれば、その子も自信がついて面白い子になると思うのですが。
坂東:好きなものや夢中になれるもの、得意なことを発見することは子育てに限ったことではなく、世代を問わず自信がつきますし、自分の存在を肯定できる大事なことですね。自信が満たされれば、機嫌よく過ごすこともできますから。
それこそ年を取れば、昔はできていたことに失敗するとか、使いこなせない機械や知らない言葉が増えるだとか、鏡を見て老けたなとため息をつくとか(笑い)、自信をなくしていやな気持ちになるばかり。放っておくとつい、できないことばかりに目が向いてしまうんですよ。
和田:ぼくは老年医学の専門家として認知症の患者さんの家族とよく話をしますが、そうすると必ず、“こないだまではできていたのに”とできないことの話になるんです。でもね、そのおじいちゃん、おばあちゃんとは認知症がかなり進行するまで話が通じる。以前と変わらず受け答えできているじゃないですか、って。患者さんが失ったことを嘆くのではなく、いまできることを褒めるべきだと言い続けているんです。
坂東:できないことではなく、できることを見つけて褒めてくれる人がそばにいたらいいのにと、私もいつも思います。高齢になると褒めてくれる人が少なくなるんです。自分を甘やかしすぎるのはよくないですが、自分の人生をおとしめ、粗末に扱うのこそ、もってのほかですね。