ミスターの“鶴の一声”が
「球界の盟主」と呼ばれる巨人の監督人事には、これまで大きな「2つの系統」が存在した。別の巨人OBが語る。
「ひとつはV9を達成した川上哲治監督の流れ、もう一つはV9時代に活躍したスター選手、つまり『ON』の系譜です。派閥とも言えるこの2つの流れから、監督交代のたびに交互に登用されてきた。川上ラインは藤田元司監督、そして現在の原監督が代表格。一方のONは自身の後継者をなかなか擁立できなかった。長嶋さんにとって松井は最後の希望と言えます」
松井監督誕生を考えるうえでは、球団人事に大きな影響力を持つとされる「ナベツネ」こと渡邉恒雄最高顧問(96)の存在も見逃せない。ある在京球団の関係者が明かす。
「渡邉さんは松井監督実現までは死ねないと、強く要望していると言われています。そうしたなか、GW中の野球教室開催に二軍球場を貸したことや東京ドームでの大々的な始球式という舞台を用意したことにより、球団と松井の距離が近づいたのは間違いないでしょう」
ただ、これまで実現に至らなかったのは、松井氏と渡邉氏の間に“複雑な事情”があるからだと見る向きもある。
「松井はヤンキースにFA移籍する際に、『最後の最後まで悩んで苦しかった』と発言して話題になりましたが、それほど巨人サイドの慰留要請は凄かった。そうした経緯から、松井のほうが主筆(渡邉氏)が健在なうちは気を遣って監督就任は時期尚早と考えているのでは、と見られているんです」(読売新聞関係者)
そんな松井氏を動かすことができる数少ない人物が、恩師である長嶋氏だ。この数年、闘病で入退院を繰り返していた長嶋氏だが、リハビリのために自宅をリフォームするなど再び表舞台に顔を出す準備が進んでいることで、「松井監督」が現実味を帯びてきたのだ。巨人担当経験があるスポーツジャーナリストが言う。
「松井を動かせるのはミスターしかいません。最近は元気になって東京ドームにも姿を見せています。発言権や判断能力がたしかなうちに球団に対して松井監督の就任を強く要望すれば、長嶋茂雄の声は“鶴の一声”ですから、球団としても動きやすくなるでしょう。
ミスターの入院中、家族以外で病室を見舞うことが許されたのは主筆と松井の2人だけという話も聞きます。国民栄誉賞も松井は固辞するつもりだったが、ミスターが受賞しにくくなるのは避けたいという理由で受けたと言われている。監督人事も同様の流れになる可能性はあります」
(後編に続く)
※週刊ポスト2023年5月19日号