13号(2017年7月1日号)には〈代替わり 吐いたツバまで 呑み込んで〉という組の代替わりについて詠まれた意味深な句が掲載。組員にとって親分は絶対的存在であるため、時と場合によって、自らの意にそぐわないかような事態が起こるのだ。18号(2019年3月1日号)にも〈この世界 黒いカラスも 白くなる〉と似たような状況を淡々と詠った句が出た。理不尽だと思えることがまかり通るのが暴力団組織であり、このような句が選ばれるのは、組員誰もがそれを当然あるものとして認識しているためだ。
いかにもヤクザらしい句は14号に載った〈赤とんぼ 指に止まるが 爪が無い〉と〈お洒落でも 一目でわかる その目つき〉だ。ヤクザは見栄を張る商売だけに、見た目や持ち物に金をかける人種だ。洋服やバッグもブランド物が好きだし、高級腕時計や宝飾品もよく身に着ける。だがいくらお洒落に装っても、その目を見れば稼業の者だとわかる場合が多く、「同業者なら一発でわかる」とある暴力団幹部は話していた。
16号(2018年7月1日号)には〈アツくなり 覚めた時には 檻の中〉という笑えない句や、〈ETC 使えず止まる 高級車>と今年に入り、ETCカードの不正利用容疑で傘下組織の組長らが逮捕される事件を暗示しているような句もあった。
高齢化が進んでいるといわれる六代目山口組では、健康に関する句が年々増える傾向にある。2023年3月1日号の28号では〈ウォーキング 好きなおやつに つい換算〉、26号(2022年7月1日号)の〈温暖化 腹のお肉は 段々か〉、24号(2021年9月1日号)では〈出た腹で 自然と保てる ディスタンス〉、22号(2020年9月1日号)では〈いびきより 静かな方が 気にかかる〉、20号では(2019年12月1日号)には〈良い数字 出るまで図る 血圧計〉〈増えるのは、診察カードと 薬代〉など、組織全体として健康への関心が高くなっていることがうかがわれる。
警察庁の調査によれば、全国の暴力団構成員及び準構成員等の数は、2005年以降減少し、2022年末時点で2万2400人、過去最少にまで減少した。暴力団構成員の平均年齢は54.2歳、50代以上がその半数以上を占めている。六代目山口組に限らずどの組織も組長や幹部らは60代、70代が多くなり、中には健康不安を抱えている者もいるだろう。仲間もシノギも減るが物価は上がる。それでも見栄を張り続け、健康に気を使い、親分には絶対服従、盃や代替わりに縛られる。いくつもの川柳から見えてきたのは、ヤクザの不自由な生き方だった。