皇室関連の話題は標的になりやすい(時事通信フォト)

皇室関連の話題は標的になりやすい(時事通信フォト)

不道徳エンタテインメント

〈東京五輪以降も、日本では炎上騒動が後を絶たない。SNSを中心とした世論が盛り上がった結果、著名人が不倫で無期限謹慎になったり、大麻所持で逮捕された俳優の過去作品までが配信停止になったりと、「抹消」に至るケースは枚挙に暇がない〉

 大衆がこぞって炎上に参加するのは、脳の仕組みが関係しています。近年の脳科学では、不道徳な者を罰すると脳の報酬系が刺激されて快感を得られることがわかっています。

 しかも、これまではワイドショーなどを見ながら、近しい友人と茶飲み話をするだけだったのが、SNSによって自分の意見を世界中に拡散できるようになった。こうして、手軽に楽しめる「不道徳エンタテインメント」が盛り上がるわけです。

 脳の報酬系は、ステイタスの高い人を引きずり下ろすときに強く活性化するので、皇室関連の話題は標的になりやすい。有名女優と有名シェフのW不倫が騒がれるのも同じ構図でしょう。

 一方、回転寿司チェーンへの迷惑動画に人々が夢中になるのは、不道徳な者を罰すると快感が得られる効果でしょう。迷惑動画は無視するのがいちばんですが、アクセス数を増やそうとするユーチューバーの「炎上商法」によって拡散され、風評被害で回転寿司店は大きな損害を被りました。

 根本的な問題は、善悪二元論でしか世界を理解できない人が多すぎること。物事はそう単純ではなく、良い面も悪い面もある。しかし脳はできるだけエネルギーを節約しようとするので、複雑なものを複雑なまま理解しようとするのは不快です。

 それに対して、自分を善、相手を悪として社会正義を振りかざすことはものすごく気分がいい。こうして、キャンセルカルチャーは手がつけられなくなっていきます。

後編に続く

【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。リベラル化する社会をテーマとした評論に『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』がある。最新刊は『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)。

※週刊ポスト2023年8月18・25日号

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