「陣中見舞い」は派閥会長の関与も濃厚に
特定の選挙について候補者を支援する趣旨の金銭は「陣中見舞い」と呼ばれる。
「かつては陣中見舞いもそのすべてを選挙運動費用収支報告書に書くということはせず、選挙期間のために借りた事務所や車など直接的な費用に充当した分だけを掲出すればいいといった運用が黙認されてきましたが、2014年、当時の東京都知事の猪瀬直樹氏が徳洲会から5000万円を提供された公選法違反事件で処罰事例ができた。2023年4月の統一地方選で元法務副大臣の柿沢未途氏からの陣中見舞いを受け取った江東区議でさえ寄付として記載していたことからわかる通り、記載が当然視されるようになっています」
この違反の当事者は議員側だけではない、と郷原氏は見る。
「選挙の支援ですから、派閥会長や事務総長の関与の度合いも、一般的なキックバックに比べて濃厚で、派閥側の政治家の共謀の責任を問うことも可能かもしれません。選挙情勢が厳しい候補などに傾斜配分をしていた可能性もある。そうした判断は派閥のトップでなければ絶対に下せないものです」
2019年7月の参院選当時の清和会の会長は細田氏、2022年7月の参院選当時は安倍晋三氏だ(投開票の前々日に銃撃事件で死去)。少なくとも2019年の参院選までは安倍派でこうした運用が行なわれていた疑いが濃厚になってきているが、2022年ではどうなのか。派閥幹部の意思決定がはっきりしてくれば、裏金の出し手、受け手という双方の国会議員が立件される可能性も高まる。
朝日新聞は12月23日付で「安倍氏は22年の派閥パーティーを5月に控えた同年4月、還流の取りやめを提案した」「最終的に4月の方針は撤回され、従来通りの裏金としての還流が9月にかけて実施されたという」とも報じている。この年の所属議員への裏金の還流がどのように行なわれたのか、真相はいまだ藪の中だ。郷原氏は言う。
「参院選の選挙資金の趣旨も含めて裏金の還流が行なわれたのであれば、なぜ安倍派が“一強”の最大派閥としてあれほどまでに盤石なものになったのか、という真相に迫ることができる可能性があると考えます。すなわち、旧・統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の支援を受けていたことに加え、このパーティー券収入が“有効活用”されて派閥の勢力が拡大されたものということになる。
もっとも、安倍氏が派閥の会長になった後に還流の取りやめを提案したのが事実であれば、安倍氏自身は派閥のパーティー券の裏金を選挙資金にすることには消極的だったことになります。
いずれにしても、今回の事件の捜査で裏金の還流の構造が明らかになれば、安倍氏の政治家としての実像が見えてくるのではないかと期待しています」
国民の期待感を背景に捜査を進めるといわれる東京地検特捜部。年末年始の捜査の進捗から目が離せない。
■取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)