学校ではなく市役所に展示
教育現場が使用のルールを決めあぐねるなか、保護者からの要求がエスカレートしている事例もある。
「休み時間や体育の授業で『野球ができないのはおかしい』という意見がある一方で、『ボールが当たって子供がけがしたらどうするのか』という保護者もいる。仮に公平を期すために1人当たりのキャッチボールの回数を決めたら、毎回、教員が立ち会って数を数えなければいけないのか。子供たちの安全を守りつつ、保護者からのクレームがないよう神経をすり減らしている現場も少なくありません」(教育ジャーナリスト)
また、「盗難」や「紛失」の心配もつきまとう。
「窃盗防止のため、ひとまずガラスケースに厳重に保管しておくことを決めた学校もあります。これでは直接触れることができないまま卒業を迎える6年生もいるかもしれない。一方で、学校ではなく市役所にグローブを集めて展示した自治体は『本来の目的と違う』と批判を浴びていました」(別の教育関係者)
グローブの寄贈に際し、大谷は自身のインスタグラムに《野球を通じて元気に楽しく日々を過ごしてもらえたら嬉しいです。このグローブを使っていた子供達と将来一緒に野球ができることを楽しみにしています!》というメッセージを投稿している。彼の思いを叶えるためには、子供たちが次々とグローブを手にし、ボロボロになるまで使い込むのが理想だが、そう簡単にもいかない、というのが実情だ。
「2010年にアイドルグループの嵐が企画・取材した書籍『ニッポンの嵐』を、観光庁を通じて全国約4万の小・中・高校に寄贈したことがありますが、そのときもまずは校長室や職員室に保管されてしまい、保護者から『子供が読めない』というクレームが来たケースもありました」(前出・教育ジャーナリスト)
大谷寄贈のグローブが過去の事例と同じ轍を踏まないように、現場の教師たちは必死に対策を練る。なかには、すでに動き始めている学校もある。神奈川県相模原市では、キャッチボール専用のボール2個と大谷の著書を市内の小学校に配布し、大谷グローブの使用をバックアップした。
「相模原市の担当者は、メディア取材に『児童だけでなく大人たちも何かを考えるきっかけになった』と話していました。これは“大谷選手による教育現場への挑戦状だ”と前向きに捉える先生がたもいます。クラスの代表児童による代表委員会でルールを決めるなど、子供たち自身に使い方を考えさせようとする学校もあるそうです」(前出・教育ジャーナリスト)
常に前向きな思考と努力の積み重ねで前人未到の二刀流を貫き、世界を驚かせてきた大谷。彼の「野球しようぜ!」という呼びかけが、ひとりでも多くの小学生に届くことを願うばかりだ。
※女性セブン2024年2月8日号