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「司馬遼、五木、星新一はもっと評価されるべき」と阿刀田氏

 阿刀田高氏は1935年東京生まれ。早稲田大学文学部卒業後、国立国会図書館に勤務。『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。短編集『ナポレオン狂』で直木賞、『新トロイア物語』で吉川英治文学賞を受賞。日本ペンクラブ会長を務める。

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 不十分なもの言いでも感じたことを率直に口にするのが年寄りの仕事だと思っているので、この場を借りて敢えて言わせてもらう。それは、「『純文学』はやめろ」である。

 もちろん「純文学」と呼ばれる作品を貶めるつもりなどまったくない。正確に表現するなら、「『純文学』という言葉を使うことをやめにしよう」ということだ。

 日本の文学界には「純文学」という枠組みが厳然と存在している。「純文学作品」と呼ばれた瞬間、そこには純粋なイメージ、つまり人間の真実を追求し、なおかつ芸術的であるという印象が生まれる。

 純粋な作品というものが実在するのかどうかはさておき、純粋な作品というカテゴリーがあれば、不純で大したことのない作品という分類が否応なく出来上がってしまう。しかし、純文学と対極にあるとされる藤沢周平、山本周五郎、司馬遼太郎は不純なのだろうか。あるいは五木寛之、井上ひさし、もしくはユニークな仕事で名を成した星新一はどうだろう。

 彼らが「大した作家」ではないという日本人はおそらくいないはずだ。にもかかわらず、「国民的な広がりを持った小説は純なものではない」という雰囲気が覆っている。事実、新聞の文芸時評ではいまだに純文学しか取り上げないし、エンターテインメントを論じる紙面は(読書欄を除いて)ほとんど目にすることがない。

 作品を特定の枠組みに嵌め込もうとする傾向は、日本の文学が持つ可能性を極端に狭める。その結果、本来の純文学が豊かにならないばかりか、それ以外の文学も正当に評価されにくい。

※週刊ポスト2011年3月18日号

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