ライフ

「司馬遼、五木、星新一はもっと評価されるべき」と阿刀田氏

 阿刀田高氏は1935年東京生まれ。早稲田大学文学部卒業後、国立国会図書館に勤務。『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。短編集『ナポレオン狂』で直木賞、『新トロイア物語』で吉川英治文学賞を受賞。日本ペンクラブ会長を務める。

 * * *
 不十分なもの言いでも感じたことを率直に口にするのが年寄りの仕事だと思っているので、この場を借りて敢えて言わせてもらう。それは、「『純文学』はやめろ」である。

 もちろん「純文学」と呼ばれる作品を貶めるつもりなどまったくない。正確に表現するなら、「『純文学』という言葉を使うことをやめにしよう」ということだ。

 日本の文学界には「純文学」という枠組みが厳然と存在している。「純文学作品」と呼ばれた瞬間、そこには純粋なイメージ、つまり人間の真実を追求し、なおかつ芸術的であるという印象が生まれる。

 純粋な作品というものが実在するのかどうかはさておき、純粋な作品というカテゴリーがあれば、不純で大したことのない作品という分類が否応なく出来上がってしまう。しかし、純文学と対極にあるとされる藤沢周平、山本周五郎、司馬遼太郎は不純なのだろうか。あるいは五木寛之、井上ひさし、もしくはユニークな仕事で名を成した星新一はどうだろう。

 彼らが「大した作家」ではないという日本人はおそらくいないはずだ。にもかかわらず、「国民的な広がりを持った小説は純なものではない」という雰囲気が覆っている。事実、新聞の文芸時評ではいまだに純文学しか取り上げないし、エンターテインメントを論じる紙面は(読書欄を除いて)ほとんど目にすることがない。

 作品を特定の枠組みに嵌め込もうとする傾向は、日本の文学が持つ可能性を極端に狭める。その結果、本来の純文学が豊かにならないばかりか、それ以外の文学も正当に評価されにくい。

※週刊ポスト2011年3月18日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
阿部なつき(C)Go Nagai/Dynamic Planning‐DMM
“令和の峰不二子”こと9頭身グラドル・阿部なつき「リアル・キューティーハニー」に挑戦の心境語る 「明るくて素直でポジティブなところと、お尻が小さめなところが似てるかも」
週刊ポスト
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン