国際情報

ロシア天然ガス 安定供給を取引材料に東電株要求もありうる

 電力不足を補うため、原発にかわって火力発電が次々に稼働しつつある。その燃料となるのは石油か天然ガスだ。震災直後、ロシアからの液化天然ガス(LNG)の緊急提供に感謝する声があるが、それはあまりにお人好しだ、日本は彼らの利のための道具なっていると、大阪商業大学の中津孝司氏は警鐘を鳴らす。

 * * *
 すでに飽和状態となった欧州に続き、ガスプロムが次に食指を伸ばすのがアジアである。アジア太平洋に向かって南下し、市場を開拓するという戦略だ。その橋頭堡として標的になっているのが日本だ。
 
 ロシアからの天然ガス供給が当たり前になった時、ロシアに突然供給を止められたら、日本はもう立ちゆかなくなる。そこで「東電の株を寄越せ」と安定供給の取引材料にすることも充分想定できる。外為法により、外資が上場する電力会社の株式を10%以上取得する場合は国の事前許可が必要だが、果たしてNOと言えるのか。まして、今や底値状態の東電株だ。その後の買い増しも容易だ。
 
 ロシアが日本に多大な関心を寄せるもう一つの理由は、日本の持つ技術力を手に入れたいからだ。気体である天然ガスを冷却して液化するLNG生産の技術をガスプロムは持ち合わせておらず、何としてでもそれを手に入れたがっている。LNGはパイプラインでガスを供給するのとは違って、世界中に輸出ができるからだ。
 
 例えば、中国は陸続きなのでパイプラインで供給できるが、中国だけのためのパイプラインになる。すると供給先が一国に限定され、価格交渉権が中国側に移りロシアの立場が弱くなる。販売先が複数に跨れば価格交渉権が中国だけに留まらない。ロシアはそのためにウラジオストクに天然ガスを送り、LNGに変えてタンカーで輸出したいのだ。
 
 ガスプロムはクレムリンのエネルギー外交の一翼を担う。ガスプロムの声はクレムリンの声なのだ。もしガスプロムが東電の株式を1%でも取得した場合、それはプーチンの声か、大統領の声かわからないが、ロシア中枢部の声であることは間違いない。
 
 もちろん東電支配のシナリオはこの一つだけではない。その時々の日ロ関係次第で異なるシナリオを選ぶ可能性もある。だが、いずれのシナリオでもガスプロムの日本侵入戦略は着実に動くだろう。

※SAPIO2011年6月15日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
立花孝志容疑者(左)と斎藤元彦・兵庫県知事(写真/共同通信社)
【N党党首・立花孝志容疑者が逮捕】斎藤元彦・兵庫県知事“2馬力選挙”の責任の行方は? PR会社は嫌疑不十分で不起訴 「県議会が追及に動くのは難しい」の見方も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン