国内

海江田氏の号泣 共感呼ばず「泣いたら失格」と断罪される理由

ワールドカップで優勝しても泣かない「なでしこ」に対し、国会で泣く海江田万里大臣。前者が共感を持って受け入れられたのに、後者がまったく共感を呼ばないのはなぜなのか。作家で五感生活研究所の山下柚実氏の視点は、こうだ。

* * *

「なでしこジャパンは、なぜ泣かないのか」について以前分析した直後でした。

海江田大臣が国会で、顔を赤くして号泣したのは。あまりにも想定外のシーンで、見ているこっちの方がびっくりした、という人も多いのではないでしょうか。

一週間経ってもあの号泣シーンは風化するどころかますます注目され、強調され、テレビやネットで問題の映像が繰り返し流され続けています。首相後任を決める民主党代表選の話題でも、海江田氏の名前がちらつくと、「あの人は泣いたから失格」と断罪される始末。

それほど、あの号泣シーンは、インパクトが強かったのです。そのあたり、泣いたご本人も見込み違いだったのでは。

泣いた理由は、いまだによくわかりません。が、もし、「自分は被害者だ」と同情を集めるための行為だったとしたら……。海江田氏は本当に「政治の素人」です。

そんな涙にだまされるほど、国民は「ウブ」でも「素人」でもありません。「政治家は、人のことで泣いても、自分のことで泣いてはいかん」とは民主党顧問・渡辺恒三氏の言。やはり長年政界にいただけあって、このコメントは多少、「政治の素人」よりも水準が高いようです。

私たちが他人の感情を理解できるのはなぜでしょうか。脳の中には「鏡のような神経=ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞があります。相手が何かの行為をすると、それを見ている人の脳の中でも、同じ細胞が発火することがわかってきました。

たとえば、涙を流す相手を見て自分も悲しい気持ちになったり、他人の苦痛に自分の心をふるわせたり。空気を読んだり、場の雰囲気に共感したりするのも、ミラーニューロンの働きによるところ大です。

サルやヒトなどの霊長類は、群れを作って共同生活するため、他者の感情をすばやく理解し、適切な対応をする必要がある。ミラーニューロンが発達したのはそのためではないかと言われています。

ところが、海江田氏の「号泣」に対して、私たちのミラーニューロンによる共感システムは一切、作動しませんでした。

感情を共有するその前に、日本国民の脳神経は「ロック」し、固まってしまったのです。いったいなぜなのでしょう。それは、あの号泣シーンが、あまりにも「驚き」だったから。

「驚き」とは、想定を超えたところに生じます。

「政治家とはこうあるべき」という最低限の想定から、あまりにもかけ離れたふるまい。そして、民主党が掲げてきた「官僚指導」というコンセプトからあまりにも遠い服従ぶり。

私たちのミラーニューロンが働かなかったその理由とは、「政治とはこうあってほしい」というささやかな望みと、海江田氏のふるまいとの間に、あまりにも巨大かつ深刻な溝があったせいではないでしょうか。

もし、そんな海江田氏が民主党代表選挙に出馬するとしたら。いったいそんな海江田氏に誰が共感するのでしょうか?


関連記事

トピックス

山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン