スポーツ

東海大・菅野智之に「弾よりも速く力は機関車よりも強く」の評

今年のドラフト、最大の話題は東海大・菅野智之の去就だったが、彼は一体どれほどの実力を持つのか。学生時代、早大野球部に在籍するも腕前は捕手10人中10番目。それでも野球の仕事は諦められず……会社員を経て雑誌『野球小僧』のライター業に辿りついた。そんな苦労の末、全国を旅しながら噂に聞こえた剛腕投手の球を受ける“流しのブルペンキャッチャー”安倍昌彦氏が菅野を語る。

* * *
それにしても、東海大の菅野智之ってヤツは、すごいヤツだ。

160キロ近い最速を有する快速球に、140キロ前半のカットボールと130キロ台のスライダーにフォーク。プロでも、これだけの「飛び道具」を揃えている投手はなかなかいない。そんな剛球を、ほとんど上半身のパワーで投げてしまう。

下半身は何もしないのか。いやいや、そんなわけはない。並外れた上体の運動量を、どっしりと支えて、精度に害を与えない。

立ち投げの初球。軽く腕を振っただけのボールが、あぶなくこっちの顔に当たるところだった。あの腕の振りでこのボールかよ……。

5の腕の振りから、7や8のボールが投げられるのがプロの資質。

腰を下ろして、本気で投げてもらったら、こっちに突進してくるボールに蒸気が噴き出しているようだった。

弾よりも速く、力は機関車よりも強く。東海大・菅野智之はクラーク・ケントの「スーパーマン」だった。 とにかく馬力、そしてスピード感。

カットボールは、ベースの上までまっすぐに来て、そこから急に進路を変えて、わが右肩を直撃した。バットが振り出されてからスッと曲がられては、打者はもはやお手上げである。

持ち球がすごいだけじゃない。 菅野智之という投手は、ピンチを迎えると相手ベンチをじ~っと見ているヤツなのだ。

監督が打者に何を指示しているのか。それを受けた打者の反応はどうだ。ビビッているのか、それとも少しは腕に覚えがあるのか。 敵陣をじ~っと見つめて、何かを察して、こういう手を打っていこう。用心深さ、そして先回り。これこそ、攻めのピッチング。マウンド上での精神年齢が高い。

11月2日、明治神宮大会の予選となる一戦で、サヨナラ負けを喫して学生野球生活の幕を下ろした菅野智之。 2死二、三塁、左打者のいちばん打ちやすい真ん中外より、今日のいちばん打ちやすい球種のカーブを投じてしまった。きれいに打ち抜かれた打球は、ライトの右へライナーとなって飛び、マウンド上の彼は、立ちつくすばかりだった。

日本ハム指名という波乱に翻弄されたが、「流れ」はいつも移ろいやすく、よくも悪くも、いつまでもそのまま続くわけではない。

※週刊ポスト2011年11月18日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

結婚生活に終わりを告げた羽生結弦(SNSより)
【全文公開】羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんが地元ローカル番組に生出演 “結婚していた3か間”については口を閉ざすも、再出演は快諾
女性セブン
「二時間だけのバカンス」のMV監督は椎名のパートナー
「ヒカルちゃん、ずりぃよ」宇多田ヒカルと椎名林檎がテレビ初共演 同期デビューでプライベートでも深いつきあいの歌姫2人の交友録
女性セブン
NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
《重い病気を持った子を授かった夫婦の軌跡》医師は「助からないので、治療はしない」と絶望的な言葉、それでも夫婦は諦めなかった
《重い病気を持った子を授かった夫婦の軌跡》医師は「助からないので、治療はしない」と絶望的な言葉、それでも夫婦は諦めなかった
女性セブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン