グラビア

酒屋の店先で一杯 江戸の粋を今に引き継ぐ立ち飲みスタイル

ビールケースをテーブル代わりに、缶詰で一杯

 
■酒屋で立ち飲みそれが角打ち

 週刊ポストで、今月から飲んべえ注目の月イチ企画が始まった。そのタイトルは『男の聖地 角打ちに憩う』。酒をこよなく愛する男たち、とくに団塊の世代・アラカン世代は、不思議な魅力を感じてしまうものだ。逆に、若い世代には、え? 角打ちって何? 的反応が起こっているかもしれない。

 この角打ちなる言葉、「酒を升にはいったまま飲むこと」と、『日本国語大辞典』では定義されている。さらに「酒屋で立ち飲みすること」の意味もあると書かれている。

 諸説があるが、そのルーツは、江戸の庶民が景気づけと称して、酒屋の店先で日本酒をきゅーっと一杯ひっかけていた風景。升の角に口を当てて飲むその姿から生まれた言葉のようだ。時代が移り、酒の種類が増え、そこにカウンターやテーブル代わりのビールケースが登場したが、酒屋で立ち飲みのスタイルは基本的に変わらない。

 だから昨今、繁華街にその数を増してきた立ち飲み居酒屋。この時代に確実にエコドリンク(安く飲める)できることから人気を集めているわけだが、角打ちを愛する人たちはかたくなに、似て非なるものと断言するだろう。酒屋系を立ち呑み、居酒屋系を立ち飲みと書き、ボーダーラインを引く“角打ッチャー”(角打ち常連客)もいるほどなのだから。

 全国的に俯瞰してみると、この角打ち文化が早くから浸透していたのが、東京、横浜中心の関東圏、そして、小倉、門司を筆頭にした北九州圏となる。同じように酒屋での立ち飲みの歴史も古く支持率も高い関西圏では、角打ちではなく、“立ち呑み”と呼ぶのが一般的だ。もちろん、“立ち飲み”ではない。

「東京から転勤してきた同僚を連れて行ったら、大阪にも角打ちがあるんだと喜んでました。最初はなんのこっちゃわからんかったけど、要するに、酒屋で酒が飲めるってことやね」と、大阪のサラリーマンの証言もある。

■味のある主人を慕って客が集まる

 常識的には、居酒屋の営業開始時間は、ターゲットであるサラリーマンがやってくることのできる夕方5時以降。しかし、角打ちの店の多くは、それよりも早い時間から開いていて、飲むことができる。繁華街であっても住宅街であっても、老舗酒屋というケースが多いため、地元住民との交流も深く、昔から通うファンが多いからだ。

 彼らは誰もがリラックスして角打ちを楽しんでいる。缶詰を肴にして『焼酎ハイボール』を缶のまま飲む――そんなてらいのなさが、角打ちの魅力なのだ。しかし、興味はあるが、体験したことがないという人間にとっては、どうもこの角打ちという言葉がちょっぴり恐ろしく感じられ、どうしても敷居が高くなってしまうという。

 そんな話しをファンにしたら、納得しながらも笑い飛ばされてしまった。

「表現は古いかも知れませんが、銭湯と同じですよ。生まれも育ちも仕事も違うけど、別に中で変わったことをやるわけじゃない。銭湯は、身体洗って湯に浸かって、温まる。角打ちは、酒とつまみを頼んで、店の人や居合わせた客と他愛もない話をしてるだけ。居酒屋と違って、席がなくては入れないなんてことはまずない。みんな適当に詰めてくれますから。怖いことなんてひとつもない。初めてでも、入っちゃえばなんとかなります」

「まずは、常連の先輩とか同僚とかに連れてきてもらうのよ。店によって違う、注文のしかた、お金の払い方があるけど、それで戸惑わなくてすむしね。でも、この手の店って、常連がみんなで教えてくれるもんだよ」

「規模の小さい店では、つまみは缶詰類や乾きものだけだけど、酒屋さんがやっているんで、地酒に凝っている店が多いね。だから、そんじょそこらで飲めない酒に出会えることがあるんだ」

「どの店だって、主人とか女将さんとかに味がある。それを慕ってくる客ばかりなんだから、入りづらいとか怖そうなんて思わなくていいんじゃないかな。怖い、高い、気を使うっていうのは、角打ちには絶対ありえないね」

 だからこそ、そんな店を訪ねまわって、全国行脚している角打ッチャーも少なくない。次回からは、角打ちの本場を取材して見つけた、魅力あふれる店を紹介していく。

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン