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石田衣良 40代までは二拍子で、50歳からは四拍子で生きる

石田衣良氏「50歳からどう生きるか」

2012年をどう生きるか。常に時代と切り結ぶテーマを世に問うてきた、直木賞作家・石田衣良さんに聞く。3回目のテーマは「50歳を生きる」。(聞き手=ノンフィクションライター・神田憲行)

* * *  

――このインタビューの1回目で「50歳になったニッポン」というお話を伺いました。石田さんご自身の50歳の感想はいかがですか。

石田:単純にキツイ(笑)。肉体的にも、40代までは「遊ぶ、仕事する」の二拍子でタンタンタンとテンポ良く進んでいましたが、50歳になって突然、「遊ぶ、休む、仕事する、休む」と四拍子になってリズムが悪くなりました。

仕事にしても、作家って50代と60代で方向性を考えないといけない時期なんです。そのままの作風で進むのか、難しい小説を書いて立派な人になるのか。でもなあ、あんまり立派になりたくないんだよなあ。「人間とはこういうものだ」とか立派な小説書く人いるけど、あんなの嘘っぱちじゃないですか(笑)。小説なんて、そんな立派なものじゃないですよ。

――「自らの方向性」は、作家でなくても会社員でも考えなければならないテーマになりますか。

石田:だと思います。サラリーマンの50歳というと、定年が60年だとすると、あと10年じゃないですか。大きなプロジェクトが出来てあと二つか三つか。自分の職業人生、ビジネスライフをまとめていくことになるから、ちょっとひとつ立ち止まって考える時期なんじゃないかなと思います。その中には、会社の利益だけじゃなくて、社会全体に恩返し、貢献出来るような意識も持ってもらえたらいいですね。

――石田さんはどのような「貢献」を考えますか。

石田:活字文化普及のお手伝いはしたいなと考えています。これから読者が減っていくのは目に見えていますから。今の読者は、本を栄養ドリンク剤やサプリメントのように、そのときの自分の気持ちに合わせてチョイスしている。教養を高めるためとか、ちょっと背伸びして、という読書は少ないんですね。

教養主義の再構築というか、「大人の常識としてこの本を読んでおかないと」ということを改めて考えたい。そういうことが長い目で見て社会全体にかかわっていくことになるから。

小説文化ということでいうと、いま中国や韓国の書店に行くと、日本の若手作家の翻訳物が平積みされていて、日本の書店とそう変わらない光景が広がっています。口では反日とかいうけれど、みんな日本の生活やライフスタイルに興味津々なんですよ。僕の小説も30冊ぐらい翻訳されています。

書籍界では2011年は電子書籍元年だったと思います。「元年」だと毎年のように言われていたんですが、昨年、僕の電子書籍の印税が初めて100万円を越えたんですよ。それまで1万円とか2万円だったので、電子書籍がブレークしたのを実感しました。

――活字産業の衰退がずっと言われています。失礼な質問になりますが、小説家として未来に不安はありませんか。

石田:まあ、別に売れなくなったら家を売って小さなマンションにでも引っ越せばいいのです。子どももいますが、一流大学に入って一生ホワイトカラーで食っていくというモデルが崩れたので、今の時代で親が子どもにしてやれることはそうはない。彼らは彼らの時代を生きていけばいいのです。サマセット・モームが書いていますが、最終的にはパンと図書館と一杯のワインがあれば人生過ごせるのです。(了)

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