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五輪できれいになったはずの北京の大気 連日スモッグ注意報

中国の首都・北京の大気汚染は、2008年のオリンピックの際盛んにクローズアップされた。中国は国の威信をかけて空気の浄化に努め、オリンピックはつつがなく終了した。ではその後、北京の大気汚染はどうなっているのか。産経新聞の香港支局長を務めたジャーナリストの相馬勝氏が、最新の北京の状況を報告する。

* * *
つい先日、所用で北京に行って驚いた。北京首都国際空港を出て、タクシーで高速道路に入ると、スモッグに包まれて、視界が数百メートルもきかないのだ。ドライバーに聞くと、「最近はいつもこんな調子」だそうで、スモッグが原因の交通事故も多発しているという。ようやく無事に北京市内のホテルに到着したが、知人の話では航空便のキャンセルは日常茶飯事で、肺がんの発生率は60%近く上昇するなど、北京の大気汚染は一向に改善していないという。

北京を訪れるのは2010年12月以来1年ぶり。前回はそれほど気にならなかったが、知人が言うには「冬は北風が吹くから、日によってはそれほど悪くはならない」ということだった。

ところが、今年はそれほど北風が吹かないらしく、ほぼ毎日「スモッグ注意報」状態で、視界がきかず、「ひどいときには200メートル先も見えない」というほど大気汚染は悪化している。

この原因は冬の暖房用の石炭ストーブによる煤煙のほか、急速に増加している市内の自動車だ。北京市政府によると、2010年には2700万トンの石炭が消費されたほか、市内の保有自動車数も2011年年末には500万台以上に膨れあがった。2008年には350万台だったから、この3年間で30%も急増した計算だ。

私が北京を訪問した数日前の12月5日には濃霧のため、発着便合わせて200機以上のフライトがキャンセルになり、125便に遅れが出たほどだ。

スモッグは有害な微小粒子状物質(直径2.5マイクロメートル以下)を含み、大量に吸い込むとぜんそくや気管支炎を引き起こすという“危険物質”でもある。

中国共産主義青年団の機関紙、中国青年報によると、同紙の社会調査センターなどがインターネットを使った世論調査を実施したところ、8割近くが最近自分の住む都市のスモッグが深刻と答え、69.8%が環境当局の大気測定結果と自分の感覚が合わないと回答している。共産党系中国紙が、当局に対する市民の不信感を示す世論調査結果を掲載するのは珍しい。

また別の報道によると、北京市五環路(高速道路)の外に居住する中国政法大学法学院の何兵・副院長が中国版ツイッター「微博」で、取り付けて間もないという自宅の空気洗浄器のフィルターを洗った後の水の写真を公開したところ、まるで墨汁のように真っ黒だった。

「空気清浄機がなかったら、真っ黒な物が全て私の肺に吸い込まれたのではないか。北京に住むということは、まさに命がけだ」と何氏は書き込んでいる。

北京市衛生局の毛羽・副局長はこのほど、北京のメディアに、2000年から2009年までの10年間で、北京市の肺がん発病率は56.35%上昇、がん患者5人のうち1人は肺がんであることを明らかにしている。

ここで急激に売れているのがマスクだ。スモッグがひどかった4日、北京の大手ドラッグストアでは前日の3倍以上の3万個のマスクが飛ぶように売れたという。特に売れ筋は活性炭入りの防塵用特殊マスクで、普通のマスクは1個5元~15元(60円~180円)だが、このマスクは20元~35元(240円~420円)もするもののすでに品切れで、工場からの入庫の目処が立たない状態だ。いかに、北京市民が大気汚染に苦しんでいるかが分かろうというものだ。

大気汚染は所構わずなので、中国共産党の最高指導部も対策に頭を痛めていると思いきや、そうでもないらしい。米紙「ニューヨーク・タイムズ」によると、党の最高決定機関の党中央委員会には、中国の家電販売会社から1台数千万円もする高価な空気清浄機が寄付されたという。党指導部は大気汚染にはさらされておらず、何も心配もないようだと報じている。

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