人生、何が幸いするかわからない。
その夜、62歳の男性・Aさんはいつものように妻と布団を並べて眠ろうとしていた。とはいえここ10年近く、夫婦生活は途絶えている。
しかし、その夜は――。布団に入る前からなぜか下半身に力を感じていて、仰向けになって寝転がると、かすかに膨張の気配が。妻の背中に身体を寄せ、下半身をその尻に押しつけると、その“気配”は確信に変わった。突然の夫の行為に息をのんでいる妻の手をとって確かめさせた。すると、妻も驚いたのか、Aさんのほうに向き直った。
ためらうことなく身体をまさぐった。かつてのように愛撫の途中で萎えることもなく、挿入後に中折れすることもなかった。こうしてAさんは久しぶりに充実した夜を過ごしたのだった。
なぜ突然、“元気”になったのか――。思い当たることはひとつしかなかった。長年、頭痛に苦しんでいたAさんは、病院で「眼鏡が合っていない。視神経の疲労からくる頭痛」だと医師にいわれ、1週間前に眼鏡を作り直したばかりだったのである。
61歳のBさんにも、同様の体験がある。Bさんは長年、虫歯に気づいていながら放置していたが、歯の詰め物が取れてしまい、仕方なく歯科医へ。会社を定年退職したこともあり、3週間かけて虫歯をすべて治療することにし、最後に歯石を取って歯のクリーニングもしてもらった。
「口の中だけじゃなく、すごくスッキリした気分になったのは確かでした」
とBさん。そして治療を終える頃から、明らかに元気になってきたという。50歳の頃から妻とはセックスレス。数年前からはAVを観ても、完全に硬くならず、観るのも億劫になっていた。
「年だからこんなものだろう」と諦めていたというBさんだが、歯の治療を機に、まるで30代の頃のような硬さを回復したというのだ。
「妻とはあいかわらずセックスレスですが、硬さが戻ったことで、なんだか男としての自信を回復したような気がする。この間、本当に射精できるか確かめるために、もう何年ぶりかにフーゾクにも行ってみました(笑い)」(Bさん)
それにしても、なぜ眼鏡や歯の治療によってED(勃起不全)が解消されたのか。一見、何の関係もなさそうだが、実は大きな影響があるという。東京EDクリニックの玄于享院長がメカニズムを説明する。
「EDの原因は、がん、糖尿病、腎機能障害など体の病気の場合もありますが、大きな要因は精神的なもの。ストレスがかかった状態になると、自律神経系の交感神経が優位に働いてアドレナリンが放出され、血管を収縮させます。海綿体の血管が収縮すれば、陰茎から血液が出ていってしまい萎える方向に働く結果、EDになるわけです。
逆に精神がリラックス状態になると自律神経系の副交感神経が優位に働き、海綿体の血管が弛緩して血液が流れやすくなる。眼鏡が合わないとか、虫歯といったストレス因子が解消されることで、自律神経系のバランスがよくなり、EDが改善された可能性はある」
※週刊ポスト2012年2月17日号