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アカデミー賞 映画文化そのものが衰退危機と落合信彦氏指摘

 2月26日に、第84回アカデミー賞の授賞式がハリウッドのコダック・シアターで行なわれる。だが、作家の落合信彦氏は、最近のアカデミー賞やハリウッド映画について危惧を抱いているという。以下は、落合氏の解説だ。

 * * *
 この原稿の締め切り時点では作品賞はモノクロのサイレント映画である『アーティスト(The Artist)』と、3D映画の『ヒューゴの不思議な発明(Hugo)』の一騎打ちとされているが、賞の行方は最後までわからない。

 監督ではマーティン・スコセッシやスティーブン・スピルバーグ。俳優ではジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ショーン・ペンなどのビッグネームが並び、華やかな祭典らしいメンバーとなっている。

 だが、私は最近のアカデミー賞やハリウッド映画について、いささか懸念を持って見ている。映画という文化そのものが衰退してしまうのではないかという危惧が、特に2000年代以降に強く感じられるようになった。

 一言で言えば、「クリエイティヴィティの低下」である。例えば2007年にアカデミー賞作品賞を受賞した『ディパーテッド(The Departed)』が香港映画のリメイクであったことに象徴されるように、リメイク作品の数が急激に増えた。

 オリジナルのスクリプト(脚本)を書ける人間が少なくなり、制作サイドが安易な作り方をしている証拠だと言える。

 アカデミー賞では、審査員の質の低下も著しい。賞に投票するアカデミー会員は、監督、俳優ら約5700人のハリウッド関係者だが、少し前ならば選ばれるはずがなかった作品がオスカーを手にしている。

 観る者の内側に深い問いを発する作品よりも、娯楽性だけの作品が好まれている。審査員がマンガやアニメばかり見て育った世代になっている証左だろう。CGや3Dなど、技術的な進歩は目覚ましいが、作品の芸術性はかえって低下している。

 最近で言えば2003年の『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還(The Lord of the Rings: The Return of the King)』の作品賞受賞で、アカデミー賞の権威は地に落ちたと実感した。2001年の『グラディエーター(Gladiator)』や1998年の『タイタニック(Titanic)』も同様だ。

 チャイルディッシュな演出の退屈なストーリーだったと言うしかない。『タイタニック』が公開された時、イギリスでは“20世紀最悪の映画”と言う批評家もいたほどだ。

 映画は時代を映す鏡だ。名作映画の枯渇は、今、世界を覆っている閉塞感と無縁ではない。

※SAPIO2012年3月14日号

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