ビジネス

「パブロフの犬」だけでなくプラナリアも因果関係を学習する

 資産運用や人生設計についての多数の著書を持つ作家・橘玲氏が、世界経済の見えない構造的問題を読み解くマネーポストの好評連載「セカイの仕組み」。株価の動きを説明する原理について橘氏はこう解説している。

 * * *
【Q】トヨタの株価が1か月間で6パーセント上昇したとする。次の選択肢からもっとも適切と思われる説明を選べ。

【1】ユーロ危機も落ち着きを見せ、アメリカの景気も回復基調にあることから、投資家の間で業績回復の期待が高まった。アナリストの投資判断も強気が大半で、株価は今後も堅調に推移するだろう。

【2】同じ期間にTOPIXが4パーセント上昇しており、トヨタ株のベータ値(感応度)は1.5なので、株価上昇率6パーセント(4×1.5)は理論どおりである。

【3】トヨタの株価がアメリカの景気の影響を受け、TOPIXとも相関性があるとしても、過去の統計から将来は予測できない。

 最初に種明かしをしてしまうと、これは株式市場における代表的な説明原理を並べたものだ。【1】はもっともポピュラーな「因果論」的説明、【2】はモダン・ポートフォリオ理論に基づく「確率論」的説明、【3】は最新流行の「複雑系」の説明だ。

 因果論では、すべてのものごとに原因と結果があると考える。太陽が東から昇って西に沈むのは地球が自転しているからだし、彼女が怒って口をきいてくれないのはデートの約束をすっぽかしたからだ。当然、株価の上昇や下落にも、それに対応した単純明快な原因があるはずだ、ということになる。

 ところで、因果論はなぜ人気があるのだろうか。近年の脳科学や生物学は、この謎を科学的に解明することを可能にした。といっても、これはぜんぜん難しい話ではない。

 プラナリアはウズムシとも呼ばれる扁形動物で、神経や消化管はあるが骨や血管はなく、脳を持つもっとも原子的な生物だ(日本の川にも生息している)。このプラナリアを透明なプラスチックチューブに入れ、電気スタンドのライトを点けた2秒後にチューブの両端に電気を通す。この実験を50回ほど繰り返すと、やがてプラナリアは明かりがつくだけで、電気ショックを予想して身体を丸めるようになる。すなわち、プラナリアは学習するのだ。

 ところでこのとき、プラナリアはなにを学習したのだろうか。いうまでもなく、「明るくなる」→「電気ショックがくる」という因果関係だ。こうした条件付けはパブロフの犬が有名だが、イヌやネズミ、ハトばかりか無脊椎の“下等”生物であるウズムシまでもがちゃんと因果関係を理解(?)している。これは長い進化の過程で、因果論的な行動原理が子孫を残すのに有利だったからだ。

 私たちが常にものごとを因果論で考えるのは、それが正しいからではなく、脳(というか神経系)が世界を因果論的に解釈するようにできているからだ。そしてこれは、人間だけでなく、生物そのものの基本原理なのだ。

(連載「セカイの仕組み」より抜粋)

※マネーポスト2012年春号

関連記事

トピックス

高校時代の安福久美子容疑者(右・共同通信)
《「子育ての苦労を分からせたかった」と供述》「夫婦2人でいるところを見たことがない」隣人男性が証言した安福容疑者の“孤育て”「不思議な家族だった」
活動再開を発表した小島瑠璃子(時事通信フォト)
《輝く金髪姿で再始動》こじるりが亡き夫のサウナ会社を破産処理へ…“新ビジネス”に向ける意気込み「子供の人生だけは輝かしいものになってほしい」
NEWSポストセブン
中国でも人気があるキムタク親子
《木村拓哉とKokiの中国版SNSがピタリと停止》緊迫の日中関係のなか2人が“無風”でいられる理由…背景に「2025年ならではの事情」
NEWSポストセブン
トランプ米大統領によるベネズエラ攻撃はいよいよ危険水域に突入している(時事通信フォト、中央・右はEPA=時事)
《米vs中ロで戦争前夜の危険水域…》トランプ大統領が地上攻撃に言及した「ベネズエラ戦争」が“世界の火薬庫”に 日本では報じられないヤバすぎる「カリブ海の緊迫」
週刊ポスト
ケンダルはこのまま車に乗っているようだ(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《“ぴったり具合”で校則違反が決まる》オーストラリアの高校が“行き過ぎたアスレジャー”禁止で波紋「嫌なら転校すべき」「こんな服を学校に着ていくなんて」支持する声も 
NEWSポストセブン
24才のお誕生日を迎えられた愛子さま(2025年11月7日、写真/宮内庁提供)
《12月1日に24才のお誕生日》愛子さま、新たな家族「美海(みみ)」のお写真公開 今年8月に保護猫を迎えられて、これで飼い猫は「セブン」との2匹に 
女性セブン
新大関の安青錦(写真/共同通信社)
《里帰りは叶わぬまま》新大関・安青錦、母国ウクライナへの複雑な思い 3才上の兄は今なお戦禍での生活、国際電話での優勝報告に、ドイツで暮らす両親は涙 
女性セブン
東京ディズニーシーにある「ホテルミラコスタ」で刃物を持って侵入した姜春雨容疑者(34)(HP/容疑者のSNSより)
《夢の国の”刃物男”の素顔》「日本語が苦手」「寡黙で大人しい人」ホテルミラコスタで中華包丁を取り出した姜春雨容疑者の目撃証言
NEWSポストセブン
石橋貴明の近影がXに投稿されていた(写真/AFLO)
《黒髪からグレイヘアに激変》がん闘病中のほっそり石橋貴明の近影公開、後輩プロ野球選手らと食事会で「近影解禁」の背景
NEWSポストセブン
秋の園遊会で招待者と歓談される秋篠宮妃紀子さま(時事通信フォト)
《陽の光の下で輝く紀子さまの“レッドヘア”》“アラ還でもふんわりヘア”から伝わる御髪への美意識「ガーリーアイテムで親しみやすさを演出」
NEWSポストセブン
ニューヨークのイベントでパンツレスファッションで現れたリサ(時事通信フォト)
《マネはお勧めできない》“パンツレス”ファッションがSNSで物議…スタイル抜群の海外セレブらが見せるスタイルに困惑「公序良俗を考えると難しいかと」
NEWSポストセブン
中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン