6月の第一金曜日。都内のあるバーに、寡黙な5人がいた。各々、ノートパソコンやiPadを広げ、画面を見つめながらビールをちびちびと飲んでいる。
そして21時30分。「来るぞ」「下ですね」「ショーターの勝ちか」「俺はここでスケベL」
モニターに映し出されたチャートが、激しく動く。「えっ、何これ? アズミンの介入か!」「これでトレ転かもしれませんね」
周囲の客が訝る不思議な“宴”は、朝まで続いた。
これは、ネット上で知り合ったFX仲間が、月に1回の米国の雇用統計に合わせて開く、飲み会の様子である。彼らが使う“専門用語”の意味は省略するが、多い時には10数人が集まり、取引をしながら朝まで飲むというのだ。
参加者の一人で「FX中毒」を自認するA氏(30代前半)が語る。
「寝る時はもちろんパソコンをつけっぱなし。チャンスになるとアラート音が鳴るようにしていますから、慢性的な睡眠不足です。最近では、目を閉じているのに、チャートが大きく動くだけで気付いてビクッと起きてしまいます」
A氏はサラリーマンだが、4月以降のユーロ暴落の波に乗って、今年の上半期だけでその年収以上、稼いだという。しかし、「6月初旬に、トレードしながらついうとうとしていたら、3時間で80万ほど負けていて、青くなりました」とも。
FXで生計を立てている30代後半のB氏は、「チャートが見られない環境が怖い」と語る。取材時は、スマホを3台持っていた。無論、3台とも取引用のアプリがインストールされている。
「1台の電波が通じなくても、別のスマホは通じることが多いですから。でも、チャートを見ているとすぐ電池がなくなるのが悩みなんですよね」
そう言って、ルイ・ヴィトンのバッグから取り出したのは、スマホ用の大容量充電器だった。これで6回ほどフル充電が可能だという。
「自宅のマンションも、停電対策をしています。停電しても100時間以上はもつバッテリーがあります。ちなみに、今のマンションは、ネットのバックボーン(接続業者までの回線)が太いから選んだんですよ。前に住んでいたところよりも、取引ボタンを押した時のレスポンスが早い。0.3秒くらいの差があると思います。それだけでも取引は有利になりますね」
※SAPIO2012年7月18日号