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人間的な、あまりに人間的な文学賞を巡る嫉妬の騒動史描く本

【書評】 『文学賞の光と影』(小谷野敦著/青土社/1890円・税込)

 古くは、直木賞をもらえなかった作家が恨みから選考委員を皆殺しにする筒井康隆の『大いなる助走』が有名だが、近年でも、西村賢太が『落ちぶれて袖に涙のふりかかる』(『苦役列車』所収)という作品で川端康成賞の候補になったが結局は受賞できない作家の焦燥を書いている。

 文学にとっては作品が全て――というのは建前に過ぎず、作家ゆえにこそか、名誉欲は強く、賞をもらえなかった時の〈なんであいつが貰ってこの俺が〉という嫉妬も深い。

 本書は、〈文学賞マニアで、文学に関心を持ち始めた高校一年の頃、ほぼ同時に文学賞にも関心を持って、レポート用紙に、各種文学賞の受賞者・受賞作一覧を作っていた〉(この執着も凄い)という自称〈芥川賞候補作家〉たる著者が、芥川賞・直木賞を中心に各種文学賞をめぐって起きた騒動を収集したものだ。例えば、こんな凄まじい話が載っている。

 第1回芥川賞の最終候補になりながら落選した太宰治は川端康成の選評に怒り、公の雑誌で「刺す。そうも思った」とまで書いた。直木賞を受賞した車谷長吉は以前芥川賞に落選した時、選考委員の藁人形を作って釘を打ち、「死ねッ!」「天誅!」と念じた……。

 著者が言う〈文壇すごろく〉を順調に上がり、華麗な受賞歴を誇る作家がいるかと思えば、不思議と賞に縁遠い有名作家もいるといったことなど、文学ファンに興味深い逸話も満載だ。

 著者はこうしたことを書くうちに〈「賞などどうでもいいではないか」という、悟りのようなものが産まれた〉という。え、本当かと思ったら、〈その悟りは、ほぼ十六日くらいしか続かなかった〉と続く。正直である。“小谷野節”炸裂の快(怪)作で、抜群に面白い。

※SAPIO2012年8月1・8日号

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