ライフ

銀座の洋食店 メニューにないのにカツカレー頼む常連客多い

三大栄養素がたっぷり含まれているカツカレー

 自民党の安倍晋三氏が総裁選を前に高級カツカレーを食べたことがネットに話題になり、にわかカツカレー熱に取り憑かれた人も多いだろう。巨人軍のスター選手が「考案」したと言われるこの料理、さまざまな蘊蓄にあふれている。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
 先日、自民党総裁選を前に安倍氏が「3500円の高級カツカレーを食べた」ことが話題になり、一時は「ホテルニューオータニ内の『SATSUKI』というカフェのカツカレーに違いない」とネット上は大盛り上がり。ちょうど「SATSUKI」のポークカツカレー(フィレ)が、サービス料込みで3520円と近い値段だったことが、「特定」めいた雰囲気に拍車をかけた。

 しかし、噂の元となった関西の情報番組を確認したところ「安倍新総裁のカツカレー」に載っていたのは明らかにロースカツ。「SATSUKI」のフィレのカツカレーとは肉も違えば、サラダの盛り方や福神漬の色も異なっていた。その後の報道で、情報番組で放送されたカレーは、宴会場のみのメニューであり、レストランのレギュラーメニューではないことが判明した。

 まだ一国の首相でもない政党の党首が「3500円のカツカレー」を食べたというだけで、これほどの騒ぎになる。裏を返せば、カツカレーはそれほど日本人に愛されているメニューなのだ。

 さまざまなメニューがそうであるように、カツカレーの誕生にも諸説ある。現在のスタイルが確立されたのは、戦後間もない1948(昭和23)年のことだと言われる。銀座にある「グリル スイス」という洋食店で、巨人軍のスター選手だった常連の千葉茂選手(当時)が「カレーにカツをのせてくれ」と注文した。その後も千葉選手は大事な試合の前には「勝負に勝つ」とゲンをかつぎ、カツカレーをたびたび注文。そうしてメニュー化されたカツカレーが爆発的な人気を博し、全国的に広まったというのだ。

 確かに銀座や周辺の街には、カツカレーの名店と言われるが多い。面白いのは街の特徴が、店舗のジャンルに如実に反映されていることだ。銀座ではカツカレーは洋食店で供される。明治創業の老舗「煉瓦亭」ではメニューに掲載されていないにもかかわらず、カツカレーを注文する常連が後を絶たない。2001年に創業し、「銀座古川」もカレーとシチューの専門店だ。

 一方、築地でカツカレーが出されるのは、とんかつ店や揚げ物専門店だ。かの池波正太郎が愛した築地のとんかつ専門店「かつ平」や、魚河岸の胃袋として知られる「豊ちゃん」、築地市場の揚げ物の雄「八千代」などもそうだ。

 スポーツ選手や河岸の男に愛された、カツカレーには、炭水化物、タンパク質、脂質という、三大栄養素が豊富すぎるほどに含まれている。炭水化物と脂質は、一食で成人男性の必要量の2/3が摂取できてしまう。野党第一党の党首として、総理大臣の座をも狙う自民党総裁には、それほどのエネルギーが必要とされるのかもしれない。

 現在はどうかわからないが、築地にある「グリル スイス」の姉妹店、「キッチン スイス」の店内には、以前「カツカレーは即戦力だ」と書かれた、千葉茂氏の色紙が飾られていた。

 安倍晋三新総裁は、前身となるサンケイアトムズ時代からの熱烈なスワローズファンだという。巨人軍の名選手のゲン担ぎメニューを決起集会で選んだ、総理大臣経験者はどんな政策を打ち出すのか。「即戦力」の腕の見せ所である。

関連キーワード

トピックス

6月6日から公開されている映画『国宝』(インスタグラムより)
【吉沢亮の演技が絶賛】歌舞伎映画『国宝』はなぜ東宝の配給なのか 松竹は「回答する立場にはございません」としつつ、「盛況となりますよう期待しております」と異例の回答
NEWSポストセブン
さいたま市大宮区のマンション内で人骨が見つかった
《さいたま市頭蓋骨殺人》「マンションに警官や鑑識が出入りして…」頭蓋骨7年間保管の齋藤純容疑者の自宅で起きた“ある異変”「遺体を捨てたゴミ捨て場はすごく目立つ場所」
NEWSポストセブン
大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン