国内

7721億赤字パナソニック 背景に組織の「縦割り文化」あった

 2012年3月期決算で7721億円という過去最大の赤字を計上したパナソニック。その理由として、プラズマテレビに集中投資した「テレビ事業の失敗」、それを推し進めた「中村邦夫前会長の独裁」という通説がある。

 もちろんプラズマへの巨額投資が経営の重荷になったのは間違いない事実である。2005年に稼働した尼崎第1工場から、2009年に完成した同第3工場まで、3工場への投資総額は4850億円にも上った。しかし工場が完成する頃には需要はなかった。

「社長のツバが飛んでくるくらいの場所に私はいました。話した内容は覚えていませんが、中村社長(当時)に限らず、社長を間近にしたのはあの時が初めてなので緊張していました」

 こう証言するのは、パナソニックの中堅技術者だ。2001年6月のある朝。茨木工場(大阪府茨木市)に、前年に社長に就任した中村邦夫(現相談役)の姿があった。この日はプラズマディスプレイパネルの量産が始まる日。中堅技術者は、「わざわざ工場まで出向いてきた中村社長の本気度を感じた」とも言う。

 事業部制の解体を柱に、流通再編、グループ企業の完全子会社化、早期退職制度の実施などを進めた「中村改革」により、2000年代前半、業績はV字回復を果たした。しかしその後10年で再び危機に陥る。元役員が語る。

「放電により蛍光体を発色させるプラズマは、もともと省エネ性能が低い。しかも、大型画面が中心なので消費電力は大きくなる。少なくとも環境革新企業を目指す会社が主力とする分野ではなかった。環境性能が劣るのを分かっていながら、中村社長はじめ中枢部はやり抜こうとした」

 一番の誤算は、小型しか作れず画質はプラズマに劣ると言われてきた液晶テレビが、あっという間にその弱点を克服し、しかも量産で低価格になったことだった。パナソニックのプラズマは、その優位性を失った。

 元役員は、「私も反省しなければならないが、出血を止めることができなかった背景には、偏った人事や組織戦略の失敗があった」と語る。「縦割り文化」から生じた問題である。

 象徴的なエピソードがある。中村改革の事業部制解体よりも前に、プラズマテレビ事業で組織再編が行なわれた。1998年に当時のテレビ事業部、松下電子工業、本社中央研究所などから、プラズマに関係する技術者が集められたのだ。その一人であるベテラン技術者は次のように話す。

「以前から全社横断プロジェクトはありました。目的は新技術や新商品を作り、会社を強くすることです。しかし、これは建前。実際に幹部たちが気にしていたのは事業部や研究所など出身母体のプレゼンス(存在感)をいかに高めるかということでした」

 パナソニックの中では、「ソニーやシャープに勝つ前に、例えばデジカメなら松下寿電子工業(現・パナソニックヘルスケア)や九州松下電器など身内が開発した同種商品に勝つことが大切」(デジカメ部門幹部)という文化があった。その文化を破壊するため中村改革は始まるのだが、その原点が後に失敗へとつながるプラズマにあったことは皮肉である。テレビ部門への偏った人事戦略について、ある中堅社員はこう話す。

「テレビ部門のAVC社は歴代社長の登竜門。そこに優秀な人材が集まっており、テレビへの過剰投資を止めることができなかった」(本文中敬称略)

■文/永井隆(ジャーナリスト)と本誌取材班

※SAPIO2012年11月号

関連記事

トピックス

10月31日、イベントに参加していた小栗旬
深夜の港区に“とんでもないヒゲの山田孝之”が…イベント打ち上げで小栗旬、三浦翔平らに囲まれた意外な「最年少女性」の存在《「赤西軍団」の一部が集結》
NEWSポストセブン
スシローで起きたある配信者の迷惑行為が問題視されている(HP/読者提供)
《全身タトゥー男がガリ直食い》迷惑配信でスシローに警察が出動 運営元は「警察にご相談したことも事実です」
NEWSポストセブン
「武蔵陵墓地」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月10日、JMPA)
《初の外国公式訪問を報告》愛子さまの参拝スタイルは美智子さまから“受け継がれた”エレガントなケープデザイン スタンドカラーでシャープな印象に
NEWSポストセブン
モデルで女優のKoki,
《9頭身のラインがクッキリ》Koki,が撮影打ち上げの夜にタイトジーンズで“名残惜しげなハグ”…2027年公開の映画ではラウールと共演
NEWSポストセブン
前回は歓喜の中心にいた3人だが…
《2026年WBCで連覇を目指す侍ジャパン》山本由伸も佐々木朗希も大谷翔平も投げられない? 激闘を制したドジャースの日本人トリオに立ちはだかるいくつもの壁
週刊ポスト
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段どおりの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン