ビジネス

ギリシャから国民続々脱出で今や豪州に“第3の都市”が誕生

 資産運用や人生設計についての多数の著書を持つ作家・橘玲氏が、世界経済の見えない構造的問題を読み解くマネーポストの連載「セカイの仕組み」。債務危機で揺れる南ヨーロッパの現実について、橘氏はこう解説している。

 * * *
 ヨーロッパ問題を語るときは、誰もが北と南の格差を問題にする。たしかに、フランクフルトやアムステルダムを訪れても、「世界不況」の影はほとんど感じられない。

 だが、南ヨーロッパのなかにも「格差」はある。

 ギリシアの首都アテネにはアクロポリスの神殿と国立博物館くらいしか見所はなく、観光客は船や飛行機でエーゲ海の島に行ってしまう。観光資源がないのに人口ばかり多いから、財政の悪化で公務員の削減や給与カットが行なわれると中産階級が貧困層に転落して、ボランティアの配給で生きていくしかなくなってしまう。

 昨年10月にオーストラリア政府が、アテネで技術系移民のための説明会を実施したところ、定員800名に対して1万7000名の応募があった。オーストラリアは移民国家なので、家族の誰かが市民権を取得すれば自分の親族を呼び寄せることができる。こうしていつのまにかギリシア人のコミュニティができあがり、メルボルンのギリシア系市民は15万人を超えるという。

 アテネの人口は75万人、第二の都市テッサロニキは32万人で、いまや“ギリシア第三の都市”はメルボルンだ。日本では産業の空洞化が問題になっているが、国家の財政が破綻すれば国民が空洞化してしまうのだ。

 こうした事情は、ポルトガルでも同じだ。

 首都リスボンは人口56万人で、東京なら杉並区と同じくらいだ。そのひとたちが旧市街と新市街、さらには郊外に分かれて暮らしている。日曜などは街に人影がなく、映画のセットを訪れたような不思議な感じがする。

 世界遺産のジェロニムス修道院などは観光客で賑わっているが、ポルトガル語を話すひとの多くはじつはブラジル人だ。ブラジルはポルトガルの植民地だったが、いまでは両者の経済規模は逆転して、ポルトガル人が仕事を求めてブラジルに渡り、成功したブラジル人が旧宗主国に観光にやってくる。

 リスボンではポルトガル語を話すアフリカ系のひとたちもよく見かけるが、彼らは旧ポルトガル領であるアフリカのアンゴラからの移民だ。ポルトガルはかつて、奴隷貿易でアンゴラから南米のブラジルなどへ黒人を“輸出”していた。

 アンゴラは1975年にポルトガルから独立したが、米ソ冷戦下で内戦に陥り、50万人ともいわれるポルトガル系住民とともに、多くのアンゴラ人が国を捨ててポルトガルに移住した。

 しかしいまや、ひとの流れは逆流し、ポルトガル人が職を求めてアンゴラに移住しようとしている。内戦が終わったアンゴラは治安も徐々に回復しつつあり、石油やダイヤモンドなど豊富な地下資源が注目される“新興国”アフリカの期待の星なのだ。

 日本の失業率は5パーセントで、年間の自殺者数が3万人を超えて大きな社会問題になっている。イタリア、ギリシア、スペイン、ポルトガルなど南欧諸国では失業率は20パーセントを超え、20代の若者にかぎれば2人に1人は職がない。

「この国には希望がない」といわれるが、それでも日本を捨てて海外に移住しようとする若者はほとんどいない。ここに、南ヨーロッパの「絶望」の深さがある。

(連載「セカイの仕組み」より抜粋)

※マネーポスト2012年秋号

関連キーワード

関連記事

トピックス

(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン