3代目として店を手伝う長男・幸一郎さんと看板犬のゴン
人々に愛されているこの店は、優に築90年を超した木造の2階建て。酒屋も角打ちも、その歴史は昭和16年から始まり、すでに70年を刻んでいる。それだけに、伝説の店にふさわしい重々しいオーラが店外まで漂い、初心者や女性には、近寄りがたいものがある。そう勝手に思っていたが、意外にも女性客の出入りはごくあたりまえの風景だった。
「父に連れられて通ううち、ひとりでも平気になりました。音楽があるし、みんなやさしいですから」(20代)
「しょっちゅう友だちとふたりで来ているんで、たまにひとりになって平気で飲んでいられます。人見知りなのに人懐こいビーグル犬のゴン君も相手にしてくれるしね」(30代)と、女性客。
14歳になるゴンが、居間と店をつなぐ濡れ縁で小首をかしげて座っているだけで、自然にだれもが微笑んでしまう。彼はりっぱに光江さんを支えているのだ。
そんなゴンに負けず、母を助けようと、7年前から3代目として店を手伝っている長男の幸一郎さん(48)が、LPレコードに針を落としながら、いたずらっぽく告白する。
「親父に似て自分も多趣味なんですよ。天体望遠鏡で星を眺めるのも大好きだし、鉄道模型のNゲージにも夢中なんです。できれば、この店の角打ちスペースの半分にNゲージのレイアウトを置いたりしたいんですけどね」
そんな息子の言葉を受けて、光江さんは「私が元気なうちは、息子の勝手にさせないわ」と、余裕の笑みを浮かべた。すかさず、幸一郎さんがフォローする。「このすべてが親父の作り出した味。このテイストを変える気持ちなんてまったくありません」