一年の計は元旦にあり――。若者のクルマ離れが叫ばれて久しいが、今年こそ真新しい車を買おうと心に決めた人もいるはず。不安定な経済情勢を鑑みれば、ハイブリッドやEV(電気自動車)など低燃費車は優先順位の高い購入動機になろう。だが、昨年から新車販売台数を牽引しているのは、意外にも約4割を占める「軽自動車」だ。
「これまで軽自動車といえば、ひたすら安さの魅力しかなく、性能や乗り心地は二の次でした。しかし、昨年ホンダが軽市場に本格参入。上級クラスになれば150万円以上もするプレミアム軽の『N BOX』『N―ONE』を出してヒットしたように、ユーザーの軽に求める価値観もずいぶん様変わりしました」(自動車専門誌記者)
N―ONEは昨年11月の発売からわずか1か月で販売計画の2.5倍となる2万5000台以上を受注。自社の主力小型車「フィット」のシェアまで食ってしまいかねない勢いを見せる。
それもそのはず。ここ10年、ダイハツやスズキに大きく水をあけられ、2011年には日産にまでシェアを奪われたホンダの軽自動車。同社営業開発室(軽・スモールカー戦略ブロック)の担当者は、「ゼロから原点に戻って軽自動車の復権を果たすべく、Nシリーズの開発には並々ならぬ思いがあった」と明かす。そして、<安い・質感がない・狭い・走らない>など負のイメージをすべて払拭した結果、フィットの快適性をも凌ぐ軽自動車が完成したというわけだ。
「試乗してみれば一発で分かると思いますが、これほど乗っていてストレスを感じない軽自動車ならば、もう普通車を買うのがばからしくなると思いますよ」
こう話すのは、自動車ジャーナリストの井元康一郎氏。同氏に、ますます進化を遂げる軽自動車の魅力を解説してもらった。
■軽はいまや「2台目カー」ではない
背の高いハイト系と呼ばれる軽自動車が売れているように、「ワゴンR」(スズキ)や「タント」(ダイハツ工業)の登場で、室内空間の拡大競争がし烈に。小家族にとっては軽自動車1台(ファーストカー)で十分。
■ランニングコスト(維持費)が安い
軽自動車の自動車税は基本7200円(年間)。小型車になると1000ccで2万9500円、1300cc(ヴィッツやフィットクラス)になれば3万4500円に跳ね上がる。その他、自賠責保険や重量税の安さを考えても軽は維持費がかからない。
■終わりない低燃費競争でガソリン代かからず
「N―ONE」が27km/リットル、昨年末に改良した「ムーヴ」(ダイハツ)がクラストップの29km/リットルを謳うなど、低燃費競争は激化する一方。各社ともさらなる低燃費を追求する予定で、ユーザーにとってはメリットが大きい。
■2トン車と衝突しても潰れない安全性
10年ほど前、ホンダ技術研究所で2トン近くあるミニバンと軽自動車のオフセット衝突実験を見た。当然ながら軽はぺちゃんこになると思ったが、生存空間がしっかり確保されていた。今後はサイドエアバッグや衝突回避システムの搭載は当たり前になるだろう。
■ガタガタでも下取り価格が高い
4~5年乗れば自動車の価値はゼロになる――との常識は軽自動車には通用しない。需要が多い分、オンボロでも予想外に高く下取りしてもらえるのが魅力。
加速度的に性能がアップする軽自動車。だが、いまのブームに水を差しかねない事態も想定される。
「自民党政権になって数年の間に、軽自動車の増税論議が再燃する可能性があります。ただ、大幅な増税になっても移行期間として現在保有している軽については旧税金体系で済む場合もあります」(井元氏)
エコカー減税の駆け込み需要が起きたように、価格・税制面でのメリットを享受したい人なら、いまが軽自動車の“買い時”なのかもしれない。