震災から2度目の冬を迎えたが、避難者はいまだに30万人を超え、復興は遅々として進まない。
被災地は忘れられたのか――そうした不安を、政治家に代わり必死に打ち消そうとする老人がいる。広島県東広島市に住む沖田泰夫さん(79)は、普段は公園の管理事務所で重機の整備などをしているが、震災や台風など、全国各地で災害が起きるたびに被災地へ赴き、長期ボランティアとして活動する。10数年前に奥さんを亡くしてから、こうした生活を続けているという。本人が語る。
「家で一人でいてもしょうがないからね。いつ出掛けないといけなくなるかわからないから、公園の仕事もボランティア。もともと自動車整備工や大工をしていたので、被災地に行けば機械整備や家屋の解体、補修、水道工事などは一通りできる。
災害が起きると、広島のボランティアセンターを通じて被災地の要望を聞いて、一度下見に行ってから、発電機やポンプなど必要な機材を自家用車に積み込み、最低でも1か月、長ければ2~3か月は滞在します。東北には震災以来、10回近く、今年もすでに3回行きました。10月は気仙沼に行って、天井の張り替えをしてきた」
沖田さんに感謝する被災者は多い。11月19日付の毎日新聞には、福島県南相馬市の68歳女性が寄せた〈78歳のボランティア男性に脱帽〉なる投書が載った。震災後、2か月も滞在してボランティア活動をしていた男性が、先日広島みやげを持参して自宅に来てくれたという。
投書は、〈自前のチェーンソーで作業をするので、「今、手入れをしてるんよ」と話されたときは、「どうぞ無事故で」と祈るばかりだった〉と結ばれている。
「僕は被災地に行く時、これまで関わった被災地を訪ねながら現地に向かうんです。そうすると、以前の被災者をフォローできる。かつて中越沖地震(2007年)で親を亡くした子供が、成人して結婚したなんて嬉しい報告を聞くこともある。
次の災害が起きても、前の災害が消えることはないんです。最近はボランティアをファッションみたいに考える人も多いけど、細くても長く続けることが大切です」
※週刊ポスト2013年1月1・11日号