広島県南西部に位置する人口25万人の静かな港町・呉市。温暖な気候に恵まれ、漁港に近いこともあって、エサを求める野良猫と住民
が優しく触れ合う町に、今はピリピリとした緊張感が張りつめている。
昨年10月22日午後4時頃、呉市役所に近い和庄公園を散歩していたお年寄りが、公園のど真ん中に何かが放置されていることに気づいた。近寄ってみるとネコの死骸であることがわかったが、それは明らかに異常な姿だった。
「頭と前足のみ、つまり上半身だけの死骸でした。公園の隅には、そのネコのものと思われる後ろ足があった。しかもこの公園ではその3日後にも、鋭利な刃物で切断されたネコの頭と内臓だけが放置されているのが見つかっている」(県警関係者)
近所の主婦は怯えた表情でこう話す。
「和庄公園は、近くの保育園児が遊んだり、お年寄りが日向ぼっこしたりする憩いの場でしたが、事件の後は誰も寄り付かなくなりました。そもそも歩いている人すらいなくなった。誰がこんな惨いことを……」
実は呉市では、昨年に入ってから猟奇的なネコの虐殺事件が相次いでいる。
昨年3月、西惣付町で上半身だけの死骸が見つかったのが発端。その後も8月に1件、10月6件、11月2件、12月4件と続き、今年に入っても、1月8日に農家の畑で頭部だけの死骸が見つかるなど、計15件発生している。
呉署では、器物損壊と動物愛護法違反の疑いで捜査を始めた。
「いずれも鋭利な刃物で惨殺され、骨や内臓を抜き取ったり、胴体や頭部を切断するなど残虐な方法で殺されている。発見場所に血痕はなく、別の場所で殺されて現場に遺棄されたようです。公園や路上などわざと人目に付きやすい場所に置いているなど共通点が多く、同一犯の可能性が高いと考えています」(捜査幹部)
発見現場は徐々に拡大している。6件もの事件が頻発した10月は、前述の公園から僅か400メートルしか離れていない寺迫運動公園で、やはり公園の真ん中で頭蓋骨を抜き取られた子猫が見つかるなど、発生箇所がいずれも呉市役所周辺に集中していた。
しかし続く11月に入ると、市役所から南に約4キロ離れた、小学校跡の校門前で胴体だけの子猫を発見。12月には管轄の呉署管内の山間部や隣の広署管内の海岸部で、同じく一部を切断された死骸が見つかっている。
※週刊ポスト2013年2月1日号