昨年夏、画期的なゲームが登場した。カードを使って、クルマがロボットに変形するマシンを操るそのゲームでは、運転の巧みさを競うドライブモードと、そのクルマが変形してロボットになり戦うバトルモードで対戦する。そのモードの違いに合わせて、ゲームセンターにある大きなゲームの筺体が変形するのだ。
「ギャグ」「ちょいエロ」「真剣バトル」をコンセプトに開発されたこの「超速変形ジャイロゼッター」(スクエア・エニックス)というゲームは、ゲームセンターだけでなく、アニメ、漫画、おもちゃと多方面に展開している。今年の1月11日から行われたマクドナルドのハッピーセットキャンペーンでは、女の子に人気のアニメ、プリキュアシリーズとともに、ジャイロゼッターの限定カードが選べるようになっていた。
ジャイロゼッターは、現実に日本の公道を走っている自動車が数多く登場することでも人気を集めている。
「ウチのクルマと一緒だ」と子どもが喜ぶような親しみやすさからか、人気の幅は当初に想定していた子どもたちにとどまらず、年末のゲーム公式大会では、女性のプレイヤーが勝ち抜く姿も見られたという。
昨年夏に放映が始まったテレビアニメでも、数多くの現存するクルマのブランドに登場人物たちが乗っている。主人公のカケルは架空のジャイロゼッターライバードに乗っているが、ヒロインのりんねは変形するとナース姿になるトヨタのプリウスに、天才ドライバーのシュンスケは、青い騎士へと変形する日産のGT-Rを操っている。
前出のトヨタ、日産のほかにマツダのロードスターや三菱自動車のパジェロ、スバルのインプレッサ、光岡自動車のオロチなど、自動車メーカー計6社のさまざまな本物のクルマがこのゲームには登場する。春に発売されるニンテンドー3DS版ではRPGが楽しめ、軽自動車で知られるダイハツとスズキのクルマの登場が噂されている。さらに、海外メーカーとも交渉中だという。
業種の垣根をこえて何社もの自動車会社が子ども向けゲームに協力している様子からは、人口減少時代に突入した日本での、将来の販売を見込んで、子どもたちにクルマに親しんでもらおうとの狙いがみえてくる。
ところが、鈴鹿サーキットとツインリンクもてぎという2つの国際サーキットをもち、世界に誇るエンジンを作り続けているホンダの名前が出てこない。
ゲームの提供開始当初から、ホンダ車の登場を待ち望む声も聞こえるが、なぜ、ジャイロゼッターへ参加しないのだろうか。
ホンダ広報にジャイロゼッターへ協力参加しない理由を尋ねると「イメージに合わないので、お断りしました」との回答が返ってきた。多くの子どもが楽しんでいるものに水を差したくないとの配慮からか、詳しい理由は控えさせてほしいとのことだった。
自動車業界関係者によると「無理もない判断ですよ」という。
「クルマがロボットに変形して、さらにバトルするというのは、ホンダにとってはつらいでしょう。二足歩行するロボットといえば、ホンダにはASIMOがあります。人間の生活空間で、平和に共存する未来を目指して何十年もロボットを開発してきたのです。それなのに“戦う”のは大きな抵抗がある。しかも、クルマが変形した姿だとなおさらです」
一理あり、か。