国内

元在日韓国人三世 ヘイトスピーチ規制法整備への複雑な思い

左:安田浩一氏 右:有田芳生氏

3月14日に参議院議員会館で開催された「排外・人種侮蔑デモに抗議する国会集会」に、約250名が集まった。これは17日にも行われた、新大久保などでの「嫌韓デモ」に抗議し、レイシズム(人種差別)の広まりを押しとどめる意志と行動を表明するために、有田芳生氏をはじめとする11名の議員が呼び掛けたものだった。

この集会に参加した元在日韓国人三世で『韓国のホンネ ~市井の若者から、“韓国ネトウヨ”まで~』の著書(安田浩一氏との共著)があるライターの朴順梨氏がデモやこの集会に対する考えを綴る。

 * * *
「朝鮮人は我々先祖の土地を奪った!」

「キムチ臭い!」

2009年12月に、在特会(在日特権を許さない市民の会)を中心とする十数名が京都朝鮮第一初級学校に押しかけ、街宣活動を行った『京都事件』の映像が集会の冒頭で流されると、会場中がしんと静まり返り、彼らの怒号だけが響き渡った。映像を初めて見た私を含め、ほとんどの参加者がやりきれなさから、声も出ない状態に陥っていたことだろう。
 
2007年に設立された在特会の活動は、この事件が起きた2009年にはすでに活発化していた。しかし大手メディアが取り上げることはほとんどなく、昨年あたりからニュースサイトなどで、ちらほらとデモの様子が紹介される程度だった。そしてようやく国会議員が腰をあげたことで、今回初めて集会が開催された。

会ではジャーナリストの安田浩一氏や、一水会最高顧問の鈴木邦男氏による基調報告などが行われたが、なかでも印象的だったのは、龍谷大学法科大学院教授の金尚均氏の発表だった。子供を京都朝鮮第一初級学校に通わせていた“当事者”である金氏は、「ユダヤ人は出ていけ」などの中傷発言に民衆扇動罪が適用されるドイツの刑法を例にあげ、日本でもヘイトスピーチを規制する法を整備できるかについて、熱をこめた口調で語っていた。

 とはいえ正直な話、元在日の私としては法が施行されたとしても「よくやった!」と言えるかは、現時点ではあまり自信がない。

なぜなら法律で取り締まったとしても、デモ参加者や支援者が「特権を持った在日韓国・朝鮮人によって、日本人が虐げられている」「在日韓国・朝鮮人の多くは反日の思想を持っているにもかかわらず、日本に居座り続けている」 と信じる限り、根本的には解決しないからだ。それに「在日が日本の法にまで介入した」という言説が生まれ、ますます怨嗟がつのる可能性だってある。

 しかし特定の相手に対し「死ね」「殺せ」とヘイトスピーチを繰り返す集団を、街中で見たくはない。私が元在日だからということ以上に、どう考えてもおかしな事態だと思うからだ。

そして「これは切実な問題提議で、もう法に頼るしかない状態。在日だけではなく、何年も良心的立場から在特会を見続けて抗ってきた人々の、悲鳴に近い意見です」と、集会に来ていた関西在住の在日男性が語ったように、耳をふさいでやり過ごすことができないほどの悲鳴が、やっと永田町にも届いたのだから。せめてこの1回の集会で終わることがないようにと、今はただそれを願うしかない。

朴順梨(フリーライター・元在日三世)

関連キーワード

関連記事

トピックス

手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
『国宝』に出演する横浜流星(左)と吉沢亮
大ヒット映画『国宝』、劇中の濃密な描写は実在する? 隠し子、名跡継承、借金…もっと面白く楽しむための歌舞伎“元ネタ”事件簿
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン
山本アナ
「一石を投じたな…」参政党の“日本人ファースト”に対するTBS・山本恵里伽アナの発言はなぜ炎上したのか【フィフィ氏が指摘】
NEWSポストセブン
今年の夏ドラマは嵐のメンバーの主演作が揃っている
《嵐の夏がやってきた!》相葉雅紀、櫻井翔、松本潤の主演ドラマがスタート ラストスパートと言わんばかりに精力的に活動する嵐のメンバーたち、後輩との絡みも積極的に
女性セブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン