ビジネス

三越伊勢丹の富裕層狙いに大丸松坂屋は大衆志向で二極化進む

 高級時計や宝飾品、ラグジュアリーブランドの売れ行き好調で、小売業界の巨人であるデパートは長い冬の時代から抜け出そうとしている。

 2012年の全国百貨店売上高は6兆1453億円(日本百貨店協会調べ)。16年連続前年割れの低迷期は何とか回避し、今年に入ってからも2か月連続でプラス成長を続けている。最近では東急線と地下鉄・副都心線が直結したおかげで、新宿3丁目の伊勢丹に客足が伸びるなど、追い風も味方する。

「新宿伊勢丹本店といえば、腐ってもファッションの本丸みたいな存在。それが景気回復期待と交通網の整備で、より大きなアドバンテージを得た」(業界関係者)と、本物の復活を予感させるコメントも相次ぐ。

 だが、このまま高額消費マインドが膨れ上がり、百貨店はバブル期のような賑わいを取り戻せるのかは、甚だ不安要素が多い。流通コンサルタントの月泉博氏がいう。

「たまたまアベノミクス効果で潤っているように見えますが、百貨店に占める美術・宝石・貴金属といった高級品の売り上げは8%に過ぎません。もし、7月の参院選、はたまた現政権の“錦の御旗”ともいえる消費税増税前にアベノミクスの化けの皮が剥がれるようなことがあれば、またデフレ時代に逆戻り。百貨店から人々の足が遠のくばかりです」

 現在、百貨店は再編を繰り返しながら主要5グループが伝統の暖簾を守り続けている。三越伊勢丹ホールディングス(伊勢丹・三越)、Jフロントリテイリング(大丸・松坂屋)、高島屋、セブン&アイ・ホールディングス(そごう・西武)、エイチ・ツー・オーリテイリング(阪急・阪神)。

 この中で、もっとも百貨店不況に強い危機感を抱き、矢継ぎ早に経営改革を進めてきたのが、Jフロントだ。大丸と松坂屋の経営統合を皮切りに、人員削減、不採算店の閉鎖、プラザ(雑貨店)やパルコ(ファッションビル)の買収、ピーコックストア(食品スーパー)の売却と、「選択と集中」を進めた結果、苦しむ他社を後目に2013年2月期の売上高1兆円超、営業利益300億円を達成しそうな勢いを見せる。

「脱・百貨店」を掲げて大丸の社長時代より16年もの間、改革に大ナタを振るったのは、奥田務会長である。トヨタ自動車元会長の奥田碩氏の実弟でもある務氏が標榜してきたのは、いわば「百貨店のショッピングセンター化」だ。月刊『BOSS』編集長の河野圭祐氏が解説する。

「専門バイヤーが商品の買い付けから品揃えまで決める従来型の『自主運営』から、ユニクロやヨドバシカメラなど大衆に人気の売れ筋テナントを入居させて集客と利益を稼ぐ『専門店ビル化』、いわば場所貸しビジネスに特化したのです」

 ショッピングモール、総合スーパーなどの台頭で小売業態の垣根がなくなっている時代だからこそ、敢えて「総合小売り(マルチリテーラー)」への変貌を目指した。古株の百貨店マンから「亜流に過ぎず、もはやJフロントは百貨店ではない」との批判も浴びたが、奥田流は確たる信念をもって貫かれた。

 その奥田氏は、「改革の基盤はできた。今後の成長は新たな経営陣で」と経営の第一線から退く意向を固めた。4月からは代表権のない取締役相談役として百貨店の将来を見守ることになる。だが、順風満帆に見えるJフロントにも課題はある。

「買収したパルコは改装する上野の松坂屋にも入る予定ですが、同業態のルミネに押されて、かつてのセゾングループの輝きはありません。Jフロントの傘の下でどれだけ相乗効果が上げられるか疑問です。また、大丸東京店の好調、銀座松坂屋の建て替えと明るい話題は多いものの、東京での存在感は在京連合の百貨店と比べてまだ一段落ちますし、さらなるブランド力の強化は必要でしょうね」(河野氏)

 前出の月泉氏は、今後の消費税増税後の景気次第では、百貨店業界に新たな再編劇が起こる可能性もあると指摘する。

「三越伊勢丹が富裕層マーケットに狙いを絞り、Jフロントは大衆志向を強くする。この2極化の流れに乗り切れず、特徴のない百貨店はいつ再編の渦に巻き込まれても不思議はありません。さらに、売り上げが伸びない電鉄系の百貨店は、どこかのグループに吸収合併されるか大同団結するしか生き残りが難しくなるかもしれません」

 事あるごとに「お客様とともに永遠に変わり続けなければ生き残れない」と語っているJフロントの奥田氏。いかに“伝統商法”に安住しない臨機応変なビジネスモデルが築けるかが、今後、百貨店には問われているのかもしれない。

トピックス

近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン
2025年10月末、秋田県内のJR線路で寝ていた子グマ。この後、轢かれてペシャンコになってしまった(住民撮影)
《線路で子グマがスヤスヤ…数時間後にペシャンコに》県民が語る熊対策で自衛隊派遣の秋田の“実情”「『命がけでとったクリ』を売る女性も」
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
文化勲章受章者を招く茶会が皇居宮殿で開催 天皇皇后両陛下は王貞治氏と野球の話題で交流、愛子さまと佳子さまは野沢雅子氏に興味津々 
女性セブン
各地でクマの被害が相次いでいる(右は2023年に秋田県でクマに襲われた男性)
「夫は体の原型がわからなくなるまで食い荒らされていた」空腹のヒグマが喰った夫、赤ん坊、雇い人…「異常に膨らんだ熊の胃から発見された内容物」
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
相次ぐクマ被害のために、映画ロケが中止に…(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
《BE:FIRST脱退の三山凌輝》出演予定のクマ被害テーマ「ネトフリ」作品、“現状”を鑑みて撮影延期か…復帰作が大ピンチに
NEWSポストセブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン