昨年、iPS細胞を開発した功績により山中伸弥京都大教授が生理学・医学賞を受賞したノーベル賞は、学術、文化における業績に対して与えられる世界でもっとも有名な賞といえるだろう。授賞式と晩餐会にスウェーデン国王一家が訪れるのが恒例となっているが、賞の運営や授与されるメダルと賞金の管理は、ノーベル財団という民間組織が行なっている。海外では、研究者へ与えられる賞には、ノーベル賞と同じく民間が運営しているものが少なくない。
たとえば、今年の2月20日に第1回授賞式が行なわれた生命科学ブレイクスルー賞がある。ここでは、ノーベル賞も受賞した前出の山中伸弥京都大教授など、生命科学分野の研究者11人に、それぞれ300万ドル(約2億8000万円)が授与された。同賞は、グーグルやフェイスブック、アップルなど、アメリカの大手IT企業の経営者が設立した財団が運営。難病治療や長寿化の先端研究で実績を挙げている研究者の後押しを目指す。
日本にも、助成事業を行なう公益法人は多数存在する。助成財団センターが2011年度に実施したアンケート調査によると、年間合計500万円以上を支出する助成事業を定期的に行なう民間の公益法人は754団体。助成事業費の合計は約601億円にのぼるという(有効回答)。
また、業績に対して贈られる褒賞プログラムも多数存在する。平成24年度の一例をあげると、武田科学振興財団(武田薬品工業)の武田医学賞(1500万円×2件)、持田記念医学薬学振興財団(持田製薬)の持田記念学術賞(1000万円×2件)、第一三共生命科学研究振興財団(第一三共)の高峰記念第一三共賞(1000万円×1件)など、さまざまだ。
そのひとつが、上原記念生命科学財団(大正製薬)の上原賞(2000万円×2件)と各種助成事業。過去28年間で約7300件、218億円の助成を行ない、民間では、日本最大級の助成財団として知られる。山中教授もまた、2008年度上原賞受賞者である。
「生命科学の研究には、設備や薬剤などに多額の資金が必要です。また、山中教授の研究のように成果の出るものばかりではありません。しかし、まだ日の目を見ない地道な研究や若い研究者が、”科学立国”日本の生命線となる可能性は大いにあるのです」(上原記念生命科学財団の事務局長・垣内明彦氏)
平成24年度に文部科学省が拠出した科学研究費は、2566億円。
「科学研究費は、国民の税金ですから、使途にも厳しい制限が課せられます。また、ナノテクのように国の威信がかかった分野に重点的に配分されます。
それに対して、民間助成金は、ニッチな分野や可能性あり、という状態の研究も支援できます。使途の制限も緩やかで、自分の裁量で使えるので、研究者にとって非常にありがたい支援です」(助成財団センター専務理事・田中皓氏)
日本にも、市民力が主体となり、“民間の活動は民間が支える”風潮が根付き始めている。