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2013.04.16 16:00  週刊ポスト

プロ棋士に勝ったコンピュータ 指すたびに感嘆の声が漏れた

 日進月歩のコンピュータ技術がヒトの計算能力を上回ったのは、はるか昔。それでも思考力や判断力が試される将棋の世界においては、これまで人智がコンピュータを上回ってきた。しかし今、その立場が逆転するかもしれない局面が訪れている。

 現役プロ棋士4人と5つのコンピュータソフトが対戦する団体戦「第二回電王戦」(3月23日~4月20日)が空前の盛り上がりを見せている。元『将棋世界』編集長で作家の大崎善生氏が、将棋界の“新風”を描き出す。

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 人間対コンピュータの5番勝負で行われる第二回電王戦は、第一局は人間が勝ち、続く第二局にコンピュータがついに現役の男性棋士を破るという歴史的な勝利を収め、一勝一敗でこの第三局へと引き継がれた。
 
 船江恒平五段が初手7六歩を指しツツカナがそれに答えて3四歩と指したところで取材陣は対局室を退出し、部屋の中はあっという間に静まり返った。人間とコンピュータが指す手順は、人間が指した手を読み上げ係が読み上げ、それを部屋の隅に座るプログラマーが入力する。
 
 そしてツツカナが考えた末に出た指し手が記録係の上に置かれたモニターに映し出されて、それをまた記録係が読み上げ、その指し手をコンピュータのダミー役ともいえる奨励会員が盤上にビシッと指して、それを船江が考えるという風になっている。

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 昼前に対局室を出てプロ棋士や取材陣が集まる控室に入る。盤面は開戦直前という場面なのだが、コンピュータの誘導により変則的な相掛かりという展開になり、人間側が少しずつ得点を重ねて優勢に見える。
 
 プロ棋士が10人いればおそらくは10人が人間側の優勢と判断するだろうという局面なのだが、しかし不思議なことにコンピュータの各有名ソフトの形勢判断ではどれもがコンピュータ側が優勢という。
 
 これはどういうことなのだろう。もしこのコンピュータの判断が正しいのだとすれば、長い年月をかけて人間が築きあげてきた、定跡や常識や形勢判断といったものが、ただの経験的な先入観に過ぎなかったということになってしまいかねない。
 
 何人ものプロ棋士が集まり、人間側が有利なはずの局面を検討している。その検討している姿を見て私はあることに気がついた。明らかに人間たちのほうがコンピュータを恐れているのである。1000のうち999が正解だったとしてもたった一手間違えてしまえば、そのまま敗戦まで持っていかれてしまう可能性がある。
 
 解説の鈴木大介八段も言っている。
 
「人間側は一手も間違えられない。その恐怖との戦いである」
 
 もし1000のうちの一を間違えたとして、コンピュータのラインに入ってしまえば、相当の確率でそこから逃げ出すことはできないのだ。腕を取られた瞬間に終わってしまう格闘技のようなものだ。

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 ツツカナに疑問手が出て形勢は船江の楽勝形に。人間ならば諦めて形作りをはじめるような局面になったがコンピュータは諦めない。控室にいくと棋士たちが「どんなに悪くなっても、少しでも隙を見せればターミネーターのように立ち上がってくるからなあ」とまだ怯えているのには驚いた。その言葉はやがて現実となり、人間が少しずつ疑問手を重ね、そしてついに逆転のときを迎える。
 
 疲れ果てた船江がついに腕を取られる瞬間がくる。あれほど恐れていたコンピュータの読みのレールに入り込んでしまった。これはもう逃れられない。まだ難解かと思われた終盤戦をツツカナは20数手に亘りノータイムで指し進め冷酷に人間の玉を追い詰めてしまった。控室にはときどきどよめきが上がる。ツツカナが指すたびに「そこはそう指すのか。いや正確だ」と感嘆の声。そのまま184手でコンピュータが歴史的ともいえる大死闘を勝ち切ったのである。
 
「負けました」という人間の声だけが響いた。

※週刊ポスト2013年4月26日号

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